何枚書いてきてると思ってんの!
その子は、これ以上ないくらい理想的な友だちだった。面白くて、明るくて、チャレンジング。そしてとびっきりの悪ガキ。常に新しい遊びを提案してきてくれる。まるで私が頭の中で作りだしたアニメのキャラクターみたいだった。私の言う誰かの悪口にも同じ熱量で相槌を打ってくれたし、怒れば怒るほど楽しそうにノッてくる。
そして「加納さんと遊んだあとは口が悪くなってるって相方に怒られるんだけど!」と、むちゃくちゃな責任をなすりつけてきたりした。漫画を読むのに夢中になって手に持ったまま舞台に出て行ったこともあるし、面識のない大御所の楽屋を興味本位でノックしに行っていたこともある。生きるのがうまくて、生きるのがヘタだった。
一度ライブの帰りに「ラーメン食べて帰ろうか」と誘うと、「行く行く!」と楽しそうに店についてきたはいいものの、のろのろとまずそうに食べるので「あんまりお腹減ってなかった?」と聞くと、「ちがうんです、さっき飴を1袋食べちゃって今口の中の皮がベロベロなんですよ!」と聞いたことのない不調を訴えてきた。
映画を見に行ったときは、終わった瞬間「あんま意味わかんなかった!」と大きい声で言い、なぜか同じアイスを2個買って食べていた。「このアイス美味しくておすすめですよ、ハマってるんです」と言ったので、「いつからハマってるん?」と聞いたら、「今日のお昼です」と飄々と答えた。
事務所ライブのリハーサル中に、ふざけていたことをマネージャーに怒られ、反省文を書かされることになったその友だちは、「ねえ見て! めっちゃ反省してる感じ出てて最高じゃない?」と、文章をまるごと送信してきた。
見てみると確かに素晴らしく見事な、非の打ち所のない反省文だった。彼女いわく、「まずは謝罪文、そして怒られたことを反省している文、それに加えて、悪いことと気づけなかった自分の認識の甘さすらも反省している文」の三段構えが効果的で、これを「普段とはちがう丁寧な筆致で綴る」ことによって、「より上のやつに響く」らしかった。
「なんでこんなに反省文うまいん?」と聞いたら、「今まで何枚書いてきてると思ってんの!」と得意げに言った。それまで授業中にお菓子を食べたり、机の上に乗って担任の先生に飛びかかったりするたびに、彼女は少しずつ反省文の腕をあげていったらしい。
私に教えてくれた学生時代のエピソードの中の彼女は、もうほとんど猿だった。「猿やん」と言ったら「せやねん」と言った。「せやねんやあらへんで」「ほんまやで!」へたくそな関西弁すら、舌先で転がして遊んでしまう。