ライフワークとして書き続けていく

──ドリアンさんは大学教授でもあります。若者たちと接する中で、ご自身の若い頃との変化を感じることはありますか?

ドリアン 圧倒的に違うのはデバイスですよね。例えば私たちが学生時代の卒業論文は、原稿用紙に万年筆かボールペンで書いていました。今の学生はワードで書いたものを提出するわけです。すると何が起こるかというと、専用ソフトを使ってキーワードを打ち込むと、一瞬にして何%ネット上の記事を引用しているかがわかってしまうんです。私の頃は7割引用しても、うまくやればバレなかったのに。

なおかつSNSを通したコミュニケーションが当たり前なので、その中の言葉で傷ついたりしてしまう。現象としては随分違うと思いますが、ほとんど変わらないのは、やっぱりどうやって生きていくかということ。居場所を見つけるという意味では、悩みは同じだと思います。

──長年ラジオでお悩み相談を担当して来られましたが、『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』は、悩みを持つ人のヒントにもなりそうですね。

ドリアン 結果的にはそうなるかもしれません。この世の中は、いろんな思想や派閥が共生している森のようなもの。僕が人生相談を受けるとき、その共生を壊すような排他主義や差別は否定しますが、それ以外は、自分と違う考えを持つ人でも“迎える側”でいたいと思っています。

この物語には人類の思想史と自然の摂理が入っていますので、きっと悩みにピッタリのエピソードが見つかるでしょうし、思想の森を味わっていただきたいです。

──『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』は、キャリアの中でどんな位置づけになるのでしょう?

ドリアン 僕にとってはとても大きな意味があります。10年前に発表した『あん』は世界中で翻訳されましたし、重要な作品ですが、今は寓話のスタイルに賭けるものがあります。動物と哲学に関しては、ライフワークとして今後も書き続けていくつもりです。

──かつてはロックバンド「叫ぶ詩人の会」のコワモテボーカリストとして注目を集めたドリアンさん。新宿ゴールデン街など酒場のイメージも強いですが……。

ドリアン まあ、ゴールデン街もある意味、人間動物園でしたけどね(笑)。今住んでいるのは神奈川の里山。歩いているだけで物語がいくらでも転がっているんです。ネオン街が好きだった時期もありましたが、子供の頃に好きだった自然界ってやっぱりいいなと、この歳になって改めて思っているところです。

バクのあそこは哺乳類一大きくて、アホウドリは生涯で60回子育てする!? ドリアン助川、構想50年の渾身作は、動物の叫びが心を揺さぶる21の物語_4
すべての画像を見る

#2 もしもモグラが土を掘り続けることに疑問を持ったら…ドリアン助川が追及する「モグラの限界状況」

取材・文/松山梢 撮影/下城英悟

『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』
バクのあそこは哺乳類一大きくて、アホウドリは生涯で60回子育てする!? ドリアン助川、構想50年の渾身作は、動物の叫びが心を揺さぶる21の物語_5
2023年10月26日発売
2,000円(税込)
四六判/304ページ
ISBN:978-4-7976-7437-8
動物の生態に哲学のひとさじ。
映画化された世界的ベストセラー『あん』のドリアン助川、構想50年の渾身作!
動物の叫びが心を揺さぶり、涙が止まらない21の物語。
哲学の入門書よりやさしく、感動的なストーリー。
どんぐりの落下と発芽から「ここに在る」ことを問うリスの青年。衰弱した弟との「間柄」から、ニワトリを襲うキツネのお姉さん。洞窟から光の世界へ飛び出し、「存在の本質」を探すコウモリの男子。土を掘ってミミズを食べる毎日で、「限界状況」に陥ったモグラのおじさん。日本や南米の生き物が見た「世界」とは?
ベストセラー『あん』の作家が描いたのは、動物の生態に哲学のひとさじを加えた物語21篇。その中で動物のつぶやき、ため息、嘆き、叫びに出遭ったとき、私たち人間の心は揺れ動き、涙があふれ、明日を「生きる」意味や理由が見えてくる!
amazon 楽天ブックス honto セブンネット TSUTAYA 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon