戦国時代から生きているサメも

––「サメ研究」の最先端で活動されている佐藤さんですが、沖縄美ら海水族館では普段どのような研究をしているのでしょうか。

基本的には、サメを飼育しているからこそできる研究や長期的なスパンの研究を重点的に行っています。
たとえば、沖縄美ら海水族館ではオスのジンベエザメ「ジンタ」を27年にわたって飼育していて、その血液を毎月採取し続けています。そして、飼育開始から17年目の2012年に、初めて血液データから成熟の兆候を確認したんです。
わかりやすく言えば、交尾をして子どもをつくれる体になったということですね。2012年時点でジンタは25〜30歳くらい。これまでジンベエザメは何年くらいで成熟にいたるのかわかっていなかったのですが、長期間の飼育によって実証できました。

めったに人は襲わない、寿命500年、人工子宮で育成…沖縄美ら海水族館に聞いた知られざるサメの生態_01
沖縄美ら島財団総合研究センター・動物研究室・上席研究員および沖縄美ら海水族館・統括を兼務する佐藤圭一(さとう・けいいち)さん。軟骨魚類の比較解剖学・分類学・繁殖生態学などを中心に、幅広くサメ・エイ類の調査研究を行っている。共著に『寝てもサメても 深層サメ学』『沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?』がある(写真提供/国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館)
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––30歳で成熟するというと、人間よりも遅いのですね。

そうなんです。このことからもわかるように、サメは人間よりも寿命が長い。サメの中でも、私の専門である深海のサメは長生きするものが多いですね。低水温で餌が比較的少ない深海の環境が影響していると考えられます。
ニシオンデンザメという深海性のサメは、寿命が300〜500年程度だと推定されています。織田信長が生きていた時代に生まれた個体が今も生きている可能性がある、ということですね。

––戦国時代から生きているサメがいるとは! ここまでで「ジンベエザメ」や「ニシオンデンザメ」といったサメが出てきましたが、現在サメは世界で何種類確認されているのでしょうか。

だいたい550種類くらいです。「だいたい」というのは、日ごとに数が変わるからです。
現生のサメは大きく2つのグループに分けられて、一つがネズミザメ上目、もう一つがツノザメ上目といいます。ネズミザメ上目にはジンベエザメやホホジロザメなど、皆さんがサメと聞いてイメージするサメが属しています。
ツノザメ上目に属するサメはかなり地味で、一般にはほとんど知られていません。中には、サイズでいうとペンくらいの大きさの小さなサメもいます。

––それは見てもサメだとわからなそうです…。それでもサメだと分類される理由があるんですよね?

はい、立派なサメです。現生種に限って言うと、エラの穴が5つ、全身が鮫肌で覆われている、軟骨質の骨格でできている、脊椎骨が尾びれの端まで延びているなどの特徴があるものは、サメとされています。

めったに人は襲わない、寿命500年、人工子宮で育成…沖縄美ら海水族館に聞いた知られざるサメの生態_02
沖縄美ら海水族館で27年間飼育されているジンベエザメのジンタ(写真提供/国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館)