「頭だけ」と「スマホでメモ」、どっちが記憶できる?
スマホの良し悪しは使い方次第。この点をもっと理解していただくためにメンタルへの影響以外にも、スマホがもたらす良い影響について、最新科学からいくつか厳選してご紹介しておきましょう。まず初めは、ロンドン大学で行われた研究からの紹介です。
一つ目が、「記憶力アップ」です。以下のような実験をイメージしてください。
1分間に、大きなスクリーンにつぎつぎと赤い数字と黒い数字がランダムに映し出されます。のちほど行われるテストで、赤い数を正確に覚えていれば、一つにつき1000円もらえます。黒い数は100円です。つまり、赤い数字の方が黒の10倍の値打ちがあるわけです。
このシンプルな数字記憶ゲームを使って、二つの参加者グループで実験していきます。
何も持たずに頭だけで覚えておくグループと、スマホのノートアプリを使ってメモを取る方法の2種類です。
数字はどんどん出てきますから、すべては記録しきれません。参加者が自分なりにできるだけのメモを取ってやっていきますが、もちろん、10倍の価値のある赤い数字の方を優先してメモしていくことになります。
どちらのグループも数字を見たあとにテストをしますが、テスト中は何も見てはいけません。つまり、メモを取ったグループの参加者も、テストをする時は自分のメモを使うことができないというわけです。
はたして「頭だけ」グループと「スマホでメモ」グループで、テストの結果に違いが出るのかどうか?
実際に行われた実験の結果は、「頭だけ」グループに比べ、「スマホでメモ」グループの方が断然に正解率が高かったのです。赤い数字の正解率は17%アップ。しかも、黒い数字はさらに大きく28%もアップしました。
この結果は何を意味するのでしょうか?
まず、ただ記憶するだけではなく、スマホに打ち込むという能動的な「インプット」のプロセスを経たことで、脳のエンゲージメントが高まったため記憶力が上がったという解釈ができます。
ただボーッと見るのではなく、見たものをスマホにインプットするという脳を使う動きで、17%記憶力が上がったというわけです。
インプットの仕方によって最適のやり方を選ぶべき理由
それではなぜ、黒い数字の記憶力もアップしたのか?
ここで注目すべきが、メモを取ることの安心感です。メモが、「大事なことをスマホに入力した」という自信や、「また見ることができる」という落ち着きにつながるというわけです。
そのことで、赤の10分の1しか価値のない黒い数字にも、より多くの意識を向けることができた結果、黒い数字の記憶が28%もアップしたと解釈できるのです。
いずれにしても、17%の記憶力アップ、28%の記憶力アップですから、研究結果は、「スマホを使うことで記憶力がアップした」ことを示しています。
本章の冒頭では「スマホが認知力を下げる」という研究結果を挙げましたが、その真反対の結果が明らかにされているのです。要するにその差は、スマホの使い方の違いなのです。
先に結論を明かしますと、読んでいるのか、聞いているのか、情報のインプットの形によって効果的なメモの仕方が違ってくる。
つまり、情報をインプットする時に、がむしゃらにメモを取っては記憶力の無駄遣いになってしまうかもしれないのです。
インプットの仕方によって最適のやり方を選ぶことで、記憶力をアップさせることができます。