急拡大するオミクロン株
しかし、「第6波」は突然襲いかかる。
2021年11月25日、南アフリカの保健当局が新たな変異株の出現を発表。官邸側は「首相のトップダウン」(官邸幹部)で、すぐに外務省などに水際対策強化を次々と指示した。変異株への対応を誤ると一気に求心力が低下しかねず、岸田は警戒感を強めていた。
翌26日には南アフリカやその周辺国など計6カ国に対する水際対策強化を表明。しかし、オミクロン株は、欧州やアジアで急速に拡大を続けていく。
日曜日の28日。岸田は官房長官の松野博一や首相秘書官らに電話などで相次いで連絡を取った。水際対策強化をどこまで広げるかーー。対象国が広すぎると、混乱や経済界からの反発が予想された。
一方で、小出しの対策では「後手」との批判を招きかねない。首相秘書官が「感染が広がっている地域を中心に対象を検討しましょうか」と話すと、岸田は首を振った。
「いや、(対象国は)全部だ」
岸田の判断は、外国人の全面的な新規入国停止。主要7カ国(G7)で最も厳しい対応だった。そこから秘書官らがほぼ徹夜で調整にあたり、岸田は翌29日、記者団に、年末までの「緊急避難的な予防措置」として、こう強調した。
「慎重の上にも慎重に対応すべきと考えて政権運営を行っている。岸田は慎重すぎるという批判は私がすべて負う覚悟だ」
日本国内初のオミクロン株の感染者が確認されたのはこの翌日だった。岸田の決断は好意的に受け止められ、その後の内閣支持率の上昇をもたらした。
官邸幹部は「うまくいっている」と自信を深めた。水際対策の強化も官邸幹部は当初、「1カ月もすれば状況は見えてくる」と楽観していた。
ところがこの目算はその後、狂い続ける。
そして、この時の岸田自身の「成功体験」が、世論を気にするあまり、ワクチン接種などの対応変更や出口戦略といった政治判断への足かせとなっていく。