3〜4ヶ月で500個の卵を産むことも
パリでトコジラミが大繁殖した理由について、日本ペストコントロール協会技術委員の小松謙之氏は「コロナ明けで世界中から観光客が殺到したことや、殺虫剤に対してのトコジラミの抵抗性が強化されたことが背景だと考えられます」と話すが、日本も対岸の火事というわけにはいかない。小松氏が続ける。
「2000年初頭にニューヨークのブティックでトコジラミが発生したことを皮切りに、その後、ニューヨークではカップルが別れる原因のひとつに『恋人の家にベッドバグがいるから』と言われるほど被害は拡大。
同時期から諸外国でも被害が報告されるようになり、日本でもインバウンド客が増え始めた2009年ごろから、私が所属する害虫防除企業にホテルなどから駆除依頼が入るようになりました。
そして、それからまもなく東京や大阪といった観光地を中心に全国的な問題となり、宿泊施設の従業員向けにトコジラミ対策の勉強会が開かれるほどになりました。その後は住宅や公共施設にも被害が広がっています」
では、そのトコジラミの生態とは?
「トコジラミはカメムシの一種で体長は5ミリから8ミリほど。人の衣類やリュックに付着し、移動先のホテルや家などに侵入後は寝具の隙間などに潜り込みます。そして人間の睡眠時に体温や体臭、二酸化炭素を察知して近寄り、露出した皮膚から3〜10分ほど吸血します。
トコジラミが増えると、ひと晩に何十ヶ所も吸血される場合もあります」(小松氏)
トコジラミに吸血されたことがない人は、刺されてもすぐにかゆみや紅斑などの症状が発現しないため、対処に遅れてしまうそうだ。
トコジラミはゴキブリなどと違ってほこりや落ちた髪の毛を食べて生き延びられない。が、ひとたび人間の血という餌を与えると、その繁殖力は驚くほど厄介でたくましい。
「成虫のメスは1日5~6個の卵を産み、1週間で幼虫に、1~2ヶ月で成虫になります。
メスは3~4ヶ月の生涯に500個前後も産卵するので瞬く間に大繁殖するのです」(小松氏)
自室にトコジラミが発生してしまったら、かゆいだけではすまない。くぼたクリニック松戸五香の窪田徹矢院長は言う。
「人間の血を吸える環境ならば、駆除作業を行わない限りトコジラミがいなくなることはありません。
そして、かゆみは抗生剤などで抑えられますが、人によっては『いつまた血を吸われるか』という恐怖心や『常に手足に虫が歩いてるような気がする』と錯覚するなど、精神が不安定になる方もいます」