恐怖のラインダンス、疲労骨折で初舞台に上がれなくなった

イジメ問題だけでなく、宝塚独特の“伝統”が劇団員にとって負担になっていたこともあったという。

「宝塚歌劇団の“伝統”にはたびたび驚かされました。いわゆる『研1』と呼ばれる生徒さんは、宝塚音楽学校を出て1年目の新人という位置付けなので、とにかく先輩の雑用をやらされます。舞台で使う刀やコップといった小道具は、基本的には演出家助手が揃えるのですが、日程の関係上、どうしても間に合わないこともあります。そうなると、先輩の指示で『研1』の子が段ボールや型紙などでその小道具を手作りで製作させられるんです」

その名の通り、“歌劇”を生業とし、“女の園”と称されることもある宝塚だが、実はその実態は超がつく程の体育会系で、上下関係は厳しく、先輩への細かな連絡も新人劇団員の重要な“仕事”だという。

「通常、翌日の予定は、演出助手が各組の生徒さん全員に伝えることになっています。しかし、細かいスケジュールなどは研1の子が逐一伝えないといけない決まりだったんですかね……。午前2時すぎにもかかわらず、研1の子から『明日のスケジュールについて詳しく教えてください』とLINEが来ることもしょっちゅうだったので、彼女たちが寝不足で体調を崩さないかと心配になりました」

公園が中止された「PAGADO(パガド)」のポスター(facebookより)
公園が中止された「PAGADO(パガド)」のポスター(facebookより)

宝塚歌劇団の伝統といえる数々の演目やレビューも、ヤマモトさんの目には「時代錯誤感満載のど根性主義で成り立つシロモノ」に映ったと話す。

「宝塚の伝統演目で真っ先に思い浮かぶのが、初舞台生(新入団生)によるラインダンスです。宝塚歌劇団では毎年4~5月に、初舞台生(同期40人)が一列に並んで足を上げる『ラインダンス』を踊るのが慣例になっていて、このお稽古が時代錯誤かと思うほど厳しいんです」

100周年の際にお披露目された伝統のラインダンスの練習風景(共同通信社)
100周年の際にお披露目された伝統のラインダンスの練習風景(共同通信社)

ラインダンスの実質的な指導役は『振付助手』と呼ばれ、そのほとんどが生徒たちの大先輩に当たる宝塚歌劇団のOGが担う。この稽古は、朝から夕方まで40~50日間も続くという。

「振付助手の先生は稽古の間ずっと『なんでそんなのもできないんか!』とか『もうアンタ出とき!』みたいゲキを飛ばしているので、耐えかねて途中で泣き出す子も出てくる。練習量の多さもハンパなくて、足上げや太もも上げといったダンスが延々と続くので、疲労骨折で初舞台に上がれなくなった生徒さんもいました。ただ量をこなすだけで上手くなるとも思えないし、やっぱりこういった昭和のような練習風景を見ていると『時代錯誤だな...』と感じましたね」

ヤマモトさんは亡くなったAさんとの接点もあり、イジメの首謀者との報道もあった「先輩」が、まわりから腫れ物に触るように避けられていた実態も見ていた。

「Aさんとは、とある公演で一緒になりました。その当時、Aさんは目立つ役についているわけではなく、顔や名前は知っていましたが一対一で話すことはありませんでした。その公演には今年2月にAさんをイジメていたと報じられた『先輩』も出演していたのですが、舞台裏でも彼女は一人でいることが多く、なんとなく孤立しているなと感じました。その時点ではAさんへの“イジメ問題”はまだ報じられてなく、我々も知りませんでしたが、今思うと宙組の生徒さんたちの人間関係は複雑で、この『先輩』も苦労をされていたんだと思います」