古くは共通一次、その後センター試験、現在は共通テスト。名称は変わっても、例年1月中旬に行われる大学入学の関門の持つ意味合いは、多くの若者にとってけっして軽くない。
本来は今年1月、そこに挑むはずだった少年は、自ら起こした事件によりその資格を失い、巻き込んだ人たちの人生をも大きく狂わせた。「卑劣」や「未熟」という言葉で片付けるにはあまりにも切ない事件だ。
少年は昨年1月15日午前8時過ぎ、大学入学共通テストの会場でもあった東京大学(東京都文京区)正門前の路上で、通行人の70代の男性の背中を包丁で刺して重傷を負わせ、受験生の男女2人に軽傷を負わせた。その直前には東京メトロ東大前駅で点火した着火剤を投げるなどしており、警視庁は少年を殺人未遂や威力業務妨害などの容疑で逮捕した。
当時少年は愛知県で文武両道の名門として知られる私立東海高校の2年生で、事件当日は高速バスで上京、凶器の包丁の他にもノコギリやツールナイフ、可燃性の液体などを所持しており、詰襟の学生服姿で犯行に及んだ。
現場で警備員に取り押さえられた際、少年は「来年東大を受験します」「偏差値70台だ!」と叫んだという。
当時17歳だった少年は、少年法に基づき名古屋家庭裁判所に非行事実を送致されたが、同家裁は刑事処分相当として検察官送致(逆送)を決定。その内容によれば、少年は高校入学後、最も偏差値の高い東京大学理科三類(概ね医学科に進む)進学を希望していたが、成績低迷により教諭や父親から進路変更を勧められて自分の存在意義を見失い、現実逃避のため自殺を試みたが実行できなかった。そのため、通行人を殺傷して安田講堂前で切腹すれば、罪悪感を抱いて自殺できると考えて犯行に及んだという。
少年は逮捕・送検後、刑事責任能力の有無を調べるための鑑定留置を経て家裁に送致された。家裁は昨年6月、少年が勉強に没頭し、それ以外の交友等から距離を置いたことなどにより情緒面の発達が未熟なまま「他者と差をつけなければならないという価値観に強く囚われていた」と指摘。
これを受けた東京地検が昨年7月、殺人未遂や威力業務妨害などの罪で少年を東京地裁に起訴。そして今回の初公判で少年は「被害者のお三方には心と体に傷を負わせてしまい、大変申し訳なく思います」と述べた。