同年の女性へ「結婚を前提にお付き合いしてください」と突如、告白

少年は、愛知県内の私立大学を卒業後、母校に就職した父親と、岐阜県出身の母親との間に長男として生まれた。家族は弟と2人の妹を加えた6人で、名古屋市名東区の分譲賃貸マンションで仲睦まじく暮らし、地元の公立中学校では吹奏楽部でクラリネット奏者として活躍するなど明るく社交的な少年に育った。

小学校時代から成績優秀。中学時代も常にトップクラスで、受験を突破して名門・東海高校に進学した。同校は一学年440人のうちおよそ400人が“内来生”と呼ばれる東海中学からの内部進学者で、少年は“外来生”として名門校で覇を競うことになった。

しかし、少年にはこの時点で若干のコンプレックスがあった。高校受験で開成高校(東京都)、ラ・サール高校(鹿児島県)、西大和学園(奈良県)の難関3校も受けていたが、すべて不合格だったという。東海高校には一学年上に少年と同じ中学出身で、かつこの3校全てに合格した先輩がいた。

この先輩は東海高校1年次に学年1位の成績をおさめており、対抗意識に駆られた少年は医師をこころざし、志望大学の目標を日本一の最難関という理由で東大理三に設定した。

東京大学赤門前
東京大学赤門前

高1の夏休み、少年は仲の良かった中学時代の同級生でつくったLINEグループにこう投稿して突然、退会した。

<すべては理科三類のため。連盟よ去らば>

連盟とはこのLINEグループのこと。“不退転の決意”が奏功したのか、少年は以降の学力考査で学年のトップ20に食い込むようになり、高2進級時には成績優秀者を集めた「A群理系」のクラスに滑り込んだ。東大や京大の理系学部を含め、国公立大医学部の進学を狙えるレベルのクラスだという。

ところが、脇目も振らず勉学に勤しんでいたはずの少年は、生徒会長選に立候補したり、好意を寄せられながらもそれまでは見向きもしなかった同学年の少女に突如「結婚を前提にお付き合いしてください」と電話するなど、雑念に苛まれ始めたのか、成績も急降下。

「偏差値70台だ!」「来年は東大を受験するんだ!」…名門高生徒による共通テスト東大前刺傷事件から1年。少年はその後高校を自主退学。父親が語る面会時の様子とは。_4
在学時代の少年の写真

東大理三を目指すならば、学年トップクラスの成績が必要とされる東海高校で100番以内にも入れなくなり、高2の秋の三者面談で「進路変更」を打診される。そして、どこか狂った歯車が少年の内面をズタズタに破壊していたことに周囲が気づかぬまま、事件は起きた。

逮捕後の取り調べで、少年はこう供述している。

「東大理三合格はおそらく無理だ。それなら自殺する前に人を殺し、罪悪感を背負って自殺しようと思った」