食品会社の管理職のケース
まず、大企業の管理職をしているADHDのケースを紹介したい。
茂木正司さんは高学歴の会社員で、全国規模の食品会社の管理職をしている。彼が発達障害の専門外来を受診したのは、妻の強いすすめがきっかけだった。妻は、茂木さんはアスペルガー症候群に違いないと主張していた。
茂木さんは小学校時代から「できる」生徒で、成績は常にトップクラスだった。
だがその割にはケアレスミスが多く、教師からは「早とちりすぎる」、親からは「そそっかしくて落ち着きがない」と指摘されていた。友達は普通にいたが、どちらかというと一人でいることが好きだった。また忘れ物が多く、片付けも苦手だった。
公立の中学を経て、進学校だった県立高校に入学した。自由な校風でのびのびと過ごせたが、成績はトップクラスというわけにはいかず、中の上あたりを行き来していた。
一年浪人した後、茂木さんは都内の難関私立大学に入学した。多くの大学生のように勉強はあまりせずに、サークル活動とアルバイトに明け暮れたが、授業の単位はしっかり取って無事に卒業した。
就職したのは大手の食品会社で、当初は営業担当だった。外回りは苦にはならなかったが、顧客との約束を忘れることが多かったため、自分で注意してしっかりメモをとるように習慣づけた。
また、同時並行で複数の仕事の案件が生じると、混乱して手につかない傾向がみられている。さらに人の話をしっかり聞かずに、言いたいことを一方的に言う傾向があったため、上司からは「厳しいことを言いすぎる」とたしなめられた。
早合点して、つい相手の話にかぶせて発言してしまう特性は現在も続いている。
営業を10年経験してから本社勤務となり、人事や管理部門に配属された。採用やコンプライアンスの担当をしていたが、自分では十分仕事をこなせて周囲からも評価されていたと思っている。