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4連覇をかけて参加した「詰将棋解答選手権」

イスに座った藤井は、左手で消しゴムをくるくると回転させ、「試験」の開始を待っていた。スタッフの「始めてください」の声と共に、用紙を裏返し、詰将棋の図面を食い入るように見つめ始めた。

詰将棋をいかに正確に、速く解くかを競う第15回詰将棋解答選手権のチャンピオン戦。2018年3月25日に東京、大阪、名古屋の3会場で開かれた。藤井は名古屋会場での参加となった。

第1ラウンドと第2ラウンドがあり、制限時間は各90分。39手詰めまでの問題が5問ずつ出題される。藤井は15年、まだプロ入りする前の小学6年の時に史上最年少で初優勝。17年まで3連覇中で、18年も優勝候補の大本命だった。

〈祝・八冠達成〉藤井聡太・6歳から圧倒的だった詰将棋の才能と姉弟子の記憶「まだ字をちゃんと書けないのに、詰将棋を解く速さは教室で一、二を争うほどでした」_1
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第1ラウンド。運営側はとびきりの難問を用意していた。合駒(あいごま)が次々と登場する手詰めで、「簡単には解けないだろう」とみられていたが、藤井はこれをあっさりクリア。55分で全5問を解き終えて、会場を退出した。

ただ、報道陣の前に姿を見せた藤井は弱気だった。「もう誰か(部屋を)出ていますよね」。点数が同じ場合、かかった時間が短い方が上の順位になる。しかし、それまで途中退出した人はおらず、ほとんどの参加者は、時間いっぱいまで頭を悩ませていた。結局、5問目を解けたのも藤井だけ。第1ラウンドを終えて、早くも単独トップに立った。

詰将棋は、任意の駒の配置と持ち駒で玉将の詰まし方を考える問題だ。実戦の終盤戦の力を身につけるのに不可欠で、藤井は地元の将棋教室に通っていた頃から来る日も来る日も取り組んできた。その積み重ねがあったからこそ、驚異的な読みの速さを身につけた。

第2ラウンドでは、報道陣の目の前でそれを印象づける場面があった。取材を許された冒頭の3分が経たないうちに、藤井は初めの問題を解き終え、解答を記入し始めたのだ。後で聞いたところ、20分ほどで4問を解き終えたという。最後の問題も見事に攻略。3会場合わせた105人の参加者の中で唯一の全問正解を果たし、4連覇を達成した。