頻発する母親の障がい児殺人
「しばらくは寝顔を見ていました。息子と一緒に死にたいけど、どうやって殺そうかと考えていました」
母親である藤井典子被告は、弁護人から「寝ている息子を車内に移動させ、どうしていたのか」という問いにこう答えた。
昨年6月、夫から離婚を切り出され、将来を悲観するなどして母親自らが障がい児の長男・蒼天(そうた)くんを車内で殺害するという痛ましい事件が起こった。
筆者の周囲には重度知的障がい児や重度心身障がい児を育てている母親が多くおり、この事件はそんな筆者らの間でも大いに話題となった。
「率直に『またか……』という思いですね」
そう話すのは、重度心身障がい児を育てている関西在住の亜矢さん(40代・仮名)だ。
この事件にかぎらず、母親が障がい児の我が子を手にかけるケースは、実は決して珍しいことではない。
2017年には京都で発達障害だった当時3歳の長男を母親が浴槽に沈めて殺害する事件が、2020年にもおなじく京都で重度知的障がいを持つ17歳の長男を母親が刺殺する事件が起こっており、それぞれ懲役4年6ヶ月と、懲役3年執行猶予5年が言い渡されている。
「周囲で同じ境遇の母親と出会うことができず、理解もされず、福祉サービスも整備されていない。そんな孤立の中で障がい児育児を強いられる。その負担は家族はもちろん、特に母親にのしかかる。地方はさらに厳しいでしょう。その環境を知っているからこそ、同情してしまうんです」(亜矢さん)