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新生・侍ジャパンの野球を紐解く井端監督の「野球観」

筆者は昨年、井端さんの著書の制作に担当編集として携わった。

内容は、タイトル通り井端さんが持つ「野球観」を掘り下げるというモノだ。もちろんご本人にも複数回にわたって、じっくりと話をうかがった。その中で感じたこと、印象深いエピソードがある

【侍JAPAN新監督】現役時代、打率を気にしたことのなかった井端弘和が絶対に妥協しなかった数字_1
10月4日、野球日本代表就任の記者会見をする井端監督 写真/共同通信
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野球人・井端弘和の印象――。

それは、非常にクレバーで、自身はもちろん、すべての事柄を客観的に見ることができる人物だということだ。

1997年ドラフトで中日ドラゴンズに5位指名を受け、プロ入りした井端さんは当初「一軍のレギュラーを目指していなかった」という。プロのレベルの高さはもちろん、5位という指名順位から自身を「そこまで期待されて獲ってもらっていない」と断言する。

そのうえで、「二軍でコンスタントに出場しても、給料は上がらない」とも思った。

そこで目指したのが「一軍の控え」だったそうだ。多くのプロ野球選手は、当然ながら一軍のレギュラーや将来のスター選手を目指してプロ入りする。しかし、井端さんは少し違う。自分の立ち位置や実力を冷静に客観視できるからこそ、「まず目指すべきは一軍の控えだ」と、より現実的な目標を設定した。

もちろんその後、実際に「一軍の控え」の座をつかんだ際に「これじゃダメだ」とマインドチェンジを図り、実際には不動のレギュラーへと成長していくわけだが、目の前の目標をしっかりとクリアしていったからこそ、ショート、セカンドという負担の大きいポジションを守り続けながら、NPB通算で1912本ものヒットを記録することができたのだろう。

井端さんのクレバーさを感じたエピソードは他にもある。それが、「数字」に対してのこだわりのなさだ。

「クレバーというなら、むしろ徹底的に数字にこだわるのでは?」

そう感じる方もいるかもしれないが、井端さんの場合は逆だ。冷静で、すべてを客観視できるからこそ目先の数字だけにこだわらない。たとえば、打率。著書の中で、井端さんはこう記している。

「そもそもギリギリ3割と2割9分台というのは、私も両方経験したことがあるが、その足りないヒット数なんて、計算してみたら5本もない。年間500打席以上立って、その中でのたかが5本。はっきり言って。どうでもいいようなヒットだってある。(~中略~)そこでの打率の差は自分の中ではあまり気にならなかった」