新生・侍ジャパンの野球を紐解く井端監督の「野球観」
筆者は昨年、井端さんの著書の制作に担当編集として携わった。
内容は、タイトル通り井端さんが持つ「野球観」を掘り下げるというモノだ。もちろんご本人にも複数回にわたって、じっくりと話をうかがった。その中で感じたこと、印象深いエピソードがある
野球人・井端弘和の印象――。
それは、非常にクレバーで、自身はもちろん、すべての事柄を客観的に見ることができる人物だということだ。
1997年ドラフトで中日ドラゴンズに5位指名を受け、プロ入りした井端さんは当初「一軍のレギュラーを目指していなかった」という。プロのレベルの高さはもちろん、5位という指名順位から自身を「そこまで期待されて獲ってもらっていない」と断言する。
そのうえで、「二軍でコンスタントに出場しても、給料は上がらない」とも思った。
そこで目指したのが「一軍の控え」だったそうだ。多くのプロ野球選手は、当然ながら一軍のレギュラーや将来のスター選手を目指してプロ入りする。しかし、井端さんは少し違う。自分の立ち位置や実力を冷静に客観視できるからこそ、「まず目指すべきは一軍の控えだ」と、より現実的な目標を設定した。
もちろんその後、実際に「一軍の控え」の座をつかんだ際に「これじゃダメだ」とマインドチェンジを図り、実際には不動のレギュラーへと成長していくわけだが、目の前の目標をしっかりとクリアしていったからこそ、ショート、セカンドという負担の大きいポジションを守り続けながら、NPB通算で1912本ものヒットを記録することができたのだろう。
井端さんのクレバーさを感じたエピソードは他にもある。それが、「数字」に対してのこだわりのなさだ。
「クレバーというなら、むしろ徹底的に数字にこだわるのでは?」
そう感じる方もいるかもしれないが、井端さんの場合は逆だ。冷静で、すべてを客観視できるからこそ目先の数字だけにこだわらない。たとえば、打率。著書の中で、井端さんはこう記している。
「そもそもギリギリ3割と2割9分台というのは、私も両方経験したことがあるが、その足りないヒット数なんて、計算してみたら5本もない。年間500打席以上立って、その中でのたかが5本。はっきり言って。どうでもいいようなヒットだってある。(~中略~)そこでの打率の差は自分の中ではあまり気にならなかった」