メディアの教訓
ひきこもりの支援施設をメディアが紹介するとき、私たちが教訓にしなければいけない事件がある。2006年4月、名古屋市北区のひきこもり支援施設で、入寮5日目の男性(当時26歳)が職員からリンチを受けて死亡したアイメンタルスクール事件だ。
当時の朝日新聞の記事によると、男性の死因は職員らによる手錠や鎖を使った拉致、監禁などによる急性腎不全と分かり、愛知県警は5月、杉浦昌子(しょうこ)・NPOO法人代表理事や職員らを逮捕監禁致死容疑で逮捕。
名古屋地裁は12月、「社会復帰寄与の名の下に正当化される余地はまったくない」として、杉浦代表理事に懲役4年の実刑判決を言い渡した(高裁で懲役3年6カ月となり、最高裁で確定)。
杉浦氏は事件前、「熱血カウンセラー」としてテレビに多数出演し、著書も発表していた。
事件当時の愛知県警担当だった朝日新聞の神田大介記者が、入寮者の死亡から10日後、杉浦元代表らの逮捕前に取材したときの様子をこう書いている。
自称「熱血カウンセラー」の口からは、責任逃れを思わせる言葉が続いた。「(死亡した入寮者は)今まで見た子で一番異常だった」「事件についてマスコミに話しているのは、みな虚言癖のある子」「年々子どもの質が落ちる」……。インタビューは1時間以上に及んだ。 (2006年12月16日 朝日新聞名古屋版)
引き出して、施設に入れて、矯正する――。アイメンタルスクールは現代では考えられない極端すぎる例にもみえるが、それを当時、メディアは持ち上げた。背景にあるのはやはり、ひきこもりが甘えや怠けであるという誤解の根強さで、私たちはまず、ひきこもりとは何かという基本をもっと知ろうとしなければいけないのだろうと思う。
記事や番組で紹介する支援業者や団体の活動が放送上適切かどうかは、行政や地域の家族会に情報を求めるなどし、ある程度の時間をかけてその人々がどんな支援を行っているのかを見極めていくプロセスも必要だと思う。結局取材も「急がば回れ」なのだ。
文/高橋淳 写真/shutterstock
#1『知らない男たちが突然に家に入り、ひきこもり女性を拉致。民間の自立支援センターによる「暴力的支援」の恐怖。「引き出し屋」と呼ばれるその実態とは』はこちらから
#2『「あなたがなんとかしてくれるんですか」ひきこもり、不登校、家庭内暴力に翻弄される家族の叫び。そのかたわらで支援センターから脱出し自死を選んだ少年もいる現実』はこちらから