森保ジャパンに必要不可欠な選手

森保監督はポゼッションよりも、積極的なプレッシングで奪い返し、スピードのある攻撃につなげる算段があるかもしれない。しかし、トップレベルではプレッシングは回避されるし、消耗戦に持ち込まれる。ハードワークなど最低限の条件で、世界に対抗する術ではない。

例えば、ビジャレアルもプレスを回避する形を持っている。左利きのセンターバック、パウ・トーレスが左サイドにやや流れ、相手全体を引き寄せ、左足で一気にサイドチェンジする。これでプレッシングを無力化し、攻撃を可能にできる。リバプール戦、セカンドレグでの2点目は、まさにその展開だった。

そしてビジャレアルが2-0とトータルスコアで追いついた後、3点奪われて敗れた理由もプレッシングとリンクしている。

ビジャレアルは前半からかなりの強度でプレスに出ていた。奪ったボールに対し、総がかりで突っ込む。それによって、同点に追いついた。しかし相当な走力を費やし、後半のパワーダウンは明らかだった。結果、61分にファビーニョに一撃を食らった後、総崩れとなったのだ。

森保ジャパンがビジャレアルから学ぶべきは、合理的なアプローチだろう。極端な攻めでも、守りでもない。その点、どんな状況でも対応できる選手としては、ロシアリーグ、ロストフFCからヴィッセル神戸に移籍したMF橋本拳人を強く推す。彼ほどの万能選手は今の代表にはおらず、アンカー、インサイドハーフ、ボランチとポジションだけでなく、マンマーキング、ゾーンと戦術適応力も高い。コクランのようにサイドMFとして相手を封鎖し、攻撃に出る力もある。

ただ、ここまで「弱者の兵法」を説いてきて逆説的な結論を書くようだが、筆者はロシアワールドカップ、ベルギー戦で目にした「真っ向勝負」の輝きが忘れられず、そこに活路を見出すべきだという意見である 。主体的に戦えるだけの人材はいる。例えばドイツで飛躍を遂げた鎌田は傑出した技術を見せ ており、代表に選ばないなどあり得ない 。

一つ言えるのは、攻め手まで少なくしてしまっては勝ちを拾えないということだろう。ビジャレアルも、結局は「個」 が状況を打開し、ゴールにつなげている。守るのはいいが、腰が引けたら敗北は必定だ。

弱者の兵法の「神算」は、敵を叩きのめすという覇気にある。

取材・文/小宮良之 写真/gettyimages

前編(人口5万人の町の小クラブの兵法をヒントに)