ホームセンターで見えた光

お互いになかなか仕事の休みが合わず、次に山に行けたのは10月に入ってからだった。この間、僕らはある作戦を立てていた。それは、試しに一度ホームセンターで杉板と棒を買って火起こしをしてみようというものだ。杉板が火起こしに向いていることは本で読んで知っていた。また、ホームセンターで売られている木材は完全に乾燥しているので、素材は完璧だ。つまり、これで火が起こせなければ、自分たちの筋力か技術力が原因ということになる。余計な変数を取り除いた、モデル実験のようなものだ。

まずはナイフを使い、火きり板に窪みと溝を彫る。石器だとあんなに大変だった作業が、ものの数分でできてしまった。鉄のナイフのすごさを実感する。

やり方は前回の火起こしと同じ。2人で交互に棒を回転させると、なんと3回目のチャレンジであっけなく火種ができてしまった。僕らの目指す「原始の火」ではなかったけど、それでも初めて見る火種に、僕らは大興奮でハイタッチした。
 

原始の火起こしに挑戦して棒を回し続けて2ヶ月、「週末縄文人」が立ち上る“炎”のなかに見たものとは‥‥後編_3


このとき、2つの重要な学びがあった。1つ目は、火種が生まれる場所だ。これまで僕らは、火種は火きり板の窪みの中で生まれるものだと思っていた。しかし実際には、火きり板から落ちた木屑の山の中で生まれていたのだ。

摩擦で熱せられた木屑が溝から落ち、1箇所に積もっていく中で温度がどんどん上昇し、それがある点を超えたとき、木屑が自ら燃えて火種が生じる。つまり大事なのは、いかに木屑の温度を上げられるか。木屑が散ったり、下に敷く葉っぱが湿っていたりするのは言語道断なのだ。

2つ目はペース配分。火種ができる直前、煙の量がブワっと増え、木屑の色が茶色から黒に変わったのを観察した。そのタイミングで棒を全力で回転させた結果、木屑の中にボロっと火種ができたのだ。

今までは最初からガムシャラに回転させていたため、後半の黒い木屑が出る頃にはバテてしまっていた。この黒い木屑が出てから本気で回転させられるよう、いかに序盤で体力を温存できるかが重要だったのだ。競馬でいうところの差し馬スタイルである。

その後も仕事帰りに杉板で練習を重ね、ようやく満を辞して原始の火起こしに挑戦できる状態に仕上がった。