児童手当は親ではなく、子どもに渡す

藻谷 その子の母親や、再婚して三人目だという父親が、葬式で笑っていたと聞きました。今でいう「親ガチャ」ですか、たまたま産んだ親が悪かった、三人目のお父ちゃんが悪かったということで、その当時は片づけられてしまった。だけど、そんなこと本人に関係あらへんでしょう。本人に関係ないところで全部決まってますみたいなことをまだ言うのかと。普通に生きて大人になることができたはずなのに、それに手を貸せないのはおかしいだろうって思う。こんなに豊かになっているのに。

「なぜ明石市のコミュニティバスが全国トップレベルの成功を収めているのか。その答えはサイレントマジョリティの声にあります」泉房穂×藻谷浩介_8
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 大きな議論ではなく、藻谷さんの原点にある固有名詞でそれを語ることはすごく意味のあることですね。それは私も重なるところです。子育てに手を貸すということでは、明石が今年から拡充した18歳までの児童手当については対象は子どもにしたいんです。親じゃない。今年から東京都も国も始めようとしています。

藻谷 すばらしいですね。

 明石市は子どもに渡すから児童養護施設の子どもに行く。離婚した後のお父ちゃんに行かずにちゃんと子どもに行くんです。それはもうこだわりがある。

藻谷 子どもの手当てが何で離婚した後のお父ちゃんに行くのか。誰もおかしいと思わなかったんでしょうかね。

 去年(2022年)の12月に10万円配るときに、離婚した父親に行くようになっているんですよ。激怒して、明石市だけでもちゃんとしたいと言ったら、総務省から怒られて、内閣府から、ちゃんと父親に配れと。意味分からんわと思って。何のためのお金ですか。国というのは本当に全国一律主義です。腹立ってけんかしましたけど、明石市はその辺りからもう国に従うことなく、制度は全部子ども中心に切り替えています。ほっとくと親が勝手に使ってしまう。
 
藻谷 そんな親は、何ぼでもいますよ。

 そこのリアリティーがないんですよ。それで市長任期の最後にドンパチやりましたけど、そのときに言われたのは、そんな境遇の子どもは1%ぐらいだろうと。だけど、全国の子どもの1%って結構な数ですよ。

藻谷 悪いけど、その1%が10万円が必要な子でしょう。

 そう、おっしゃるとおり。それがリアリティーなんですよ。

藻谷 ちょっとつまらん言い方ですけど、泉さんってすごく仏さんっぽいです。顔もそうですしね(笑)。昔、地元の貧しい漁師の集落で、育て切らん子どもが死んでいた時代に建った水子地蔵の前で胸を張って歩ける人間になるぞという思いを固めた。その思いを今も強く持っている人です。地蔵さんは、子どもをみんな助ける。鬼子母神の子どもも助ける。善悪がぱしっと切れてないけど、優しい。人間のある面についてはしょうもないけど、ある面はええとこあるから、それは伸ばしたれという考えじゃないですか。その優しさは重要だし、今日話したことは、そういう泉さんの根っこの部分から出ているのだと思う。だからこそ、僕としては目が離せないし、応援したいんですよ。

#2につづく

構成・文=宮内千和子 撮影=石川雅彩

#2「明石モデル」で子育て世代、高齢者層から圧倒的な支持を受ける泉房穂氏が唯一、氷河期世代から不人気な理由

日本が滅びる前に 明石モデルがひらく国家の未来 (集英社新書)
泉 房穂 
2023年9月15日
1,100円
208ページ
ISBN:978-4087212792
大増税、物価高、公共事業依存、超少子高齢化の放置…
社会の好循環を絶対生まない「政治の病(やまい)」をえぐり出す
泉流ケンカ政治学のエッセンス!

◆内容紹介◆
3期12年にわたり兵庫県明石市長をつとめた著者。「所得制限なしの5つの無料化」など子育て施策の充実を図った結果、明石市は10年連続の人口増、7年連続の地価上昇、8年連続の税収増などを実現した。しかし、日本全体を見渡せばこの間、出生率も人口も減り続け、「失われた30年」といわれる経済事情を背景に賃金も生活水準も上がらず、物価高、大増税の中、疲弊ムードが漂っている。なぜこうなってしまったのか? 
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