選択権を保証するのが市の仕事
藻谷 まさに段階踏んでトライアルアンドエラーでやっている。さすがです。
少子化にも似たような構図があります。本能に任せていれば産みたい子どもを我慢している妊娠可能な人たちがサイレントマジョリティーです。だけどその声は聞こえない。産めもしないし、自分の子育ては妻に押し付けて何もしなかった中高年男性が、ノイジーマイナリティそのもののとして、上がらない声を無視してきた。その結果、とうとう日本の子どもが半減してしまった。『デフレの正体』でも書きましたが、少子化を放置した結果、ここ四半世紀は経済も停滞している。ですが、「経済が停滞したから子どもを増やしましょう」というのは本末転倒で、産みたいのにあきらめる人を放置してきたことが、そもそも問題だったのです。
泉さんはその点、順番を間違えていませんね。サイレントマジョリティーの声を聞いて、産みたい人が産んで、皆で助け合って育てる環境を整えれば自ずと経済も回ってくると。育てる経済力がないので産むのをあきらめた人の人権、あるいは育てる能力のない親の下に生まれて、えらい虐待されてるお子さんの人権もある。そういう子どもたちの人権を全部合わせて、ひどい不幸を減らそうぜと泉さんはやっているわけです。その根っこの部分を僕は多くの人に理解してほしい。
泉 それも環境整備の一環です。基本的に明石の政策は選択権の保障です。子どもの施策に関しても、私は別に、結婚しろや、産めやと言ったわけじゃない。結婚してもしなくてもいいし、子ども産んでも産まなくてもいいし、二人いようが三人いようが、いてもいなくてもいいんです。ただ、産みたいのであれば産めるようにちゃんと環境整備をする、選択権の保障をするということです。
藻谷 産みたい人が産めるようにするというだけですよね。
泉 そうです。その環境整備をした結果、出生率が若干上がっただけで、別にそれが自己目的化してるわけじゃない。産みたいのに、子どもを預ける場所がないとかお金が心配で躊躇するのは、社会として残念ですよねと。それぐらいはせめて行政が、みんなから預かっているお金である税金と、市の公務員が絞った知恵で選択権の保障をしましょうという感じです。