「どうやって懐石料理を作るのか、正直困りましたよ」
処理水問題による海産物の禁輸と同根の構図だが、パーティーはこうした中国の国内事情を度外視する形で進んでいった。
「驚いたのは、駐日中国大使館の首席公使である楊宇氏が出席していたことです。何しろ、日本政府に強硬な姿勢を貫く中国の〝戦狼外交〟を象徴する存在ですから。処理水問題で微妙なこの時期に、こんなパーティーに出席して大丈夫なのか、とこちらが心配になったくらいです」(同前)
出席者によると、楊公使は宴席で「実は、僕はマオタイ酒の発祥地である貴州で2年ほど勤務したことがある。貴州は私の第二の故郷のようなもので、故郷のお酒の味を楽しんでください」と、外交官にしては珍しいセールストークも披露していた。
一方で、処理水問題で揺れる日中関係を見越した配慮の形跡も見受けられたという。
「貴州茅台酒側が、直前になって、料亭の担当者に『食材に魚介類を使わないでくれ』と伝えてきたんだそうです。中国政府にパーティーの模様が伝わったときのリスクを考慮したのでしょう。担当者は『(魚介類なしで)どうやって懐石料理を作るのか、と正直困りましたよ』とぼやいていましたね」(同前)
中国には、「上有政策、下有対策」という有名な言葉がある。「国に政策があれば、国の下にいる国民にはその政策に対応する策(抜け道)がある」という意味だ。
今回、中国のトップ企業が見せた動きは、処理水問題で日本への攻撃を先鋭化させている習近平政権の思惑とはかけ離れていることは明白だ。まさに「上有政策、下有対策」を地で行く対応だ。本音と建て前を使い分ける彼らのしたたかさが浮き彫りになった一件ともいえるだろう。
取材・文/安藤海南男 集英社オンライン編集部ニュース班