さみしさがあっても充実した人生を送ることはできる

あなたの痛みを癒やすのは、相手の存在ではない、ということに、本当はあなたも気づいているのではないでしょうか。相手よりも、もっと別のところに、あなたのさみしさを上手に扱うための機構を、求めていく必要があります。

それは、仕事に打ち込むことかもしれませんし、自分の価値をより感じられるように、注力できるなにかを探すことかもしれません。さみしい、という気持ちがどこから生まれてくるのか、わたしたちはなぜさみしさを感じるのか、ということをじっくりとひとりの時間をとって考えたり、数多くの過去の人が同じようにさみしさに苦しんできたことから得た知見を学んでいくことであったりするかもしれません。

さみしさがあっても、充実した人生を送ることは十分に可能なことです。

また、適度な距離感の友だちを持つことも、ときには大切なことでしょう。人が必要とする友だちの数は、人それぞれに違います。性格も環境も異なりますし、たくさんの友だちとにぎやかなときを過ごしたい人もいれば、深く語り合える仲の友だちがひとりいれば十分だという人もいます。

さみしいという感情が時に思い通りにならない相手や社会に対する強い怒りになる… 脳科学者が説く、さみしさの危険性とは?_4
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ただ、ここで「適度な距離感」と書いたことには理由があります。人間は距離が近くなれば相手の嫌な部分が目に入り、相手にも自分の嫌な部分が目に入り、良好な関係を持続していくのが難しくなっていくからです。

互いに、困ったときには打ち明けることができ、けれども依存的になることなく自立しているという関係をつくることができればとても理想的でしょう。

とはいえ、理想に縛られて窮屈さを感じるようであれば、それは本末転倒です。みっともない状態の自分で友だちを傷つけてしまった、ということがもしあったとしても、残念なことは残念なこととして、受け止めていけるだけの心の弾力を持ちたいものです。

#1 なぜ「ソロ活」は流行して「ぼっち」は嫌われるのか。友だちがいないのはさみしい人なのか? 脳科学者が紐解く「さみしさの正体」とは?

『人は、なぜさみしさに苦しむのか?』(アスコム)
中野 信子
さみしいという感情が時に思い通りにならない相手や社会に対する強い怒りになる… 脳科学者が説く、さみしさの危険性とは?_5
2023年8月31日
1,397円(税込)
新書 ‏ : ‎ 284ページ
ISBN:4776212692
さみしさは心の弱さではない。生き延びるための本能-。
人類は、なぜ「さみしい」という感情を持つのか?
あなたの知らないあなたの心を脳科学が解き明かす!

「ひとりでいるのがつらい」「誰といても満たされない」
集団をつくり、社会生活を営むわたしたち人類のなかで、さみしい・孤独だと一度たりとも感じたことがない人は、おそらくいないのではないでしょうか。
集団をつくる生物は、孤立すればより危険が増すため、さみしさを感じる機能をデフォルトで備えているはずだからです。さみしさは人類が生き延びるための本能であり、心の弱さではありません。それなのになぜ、私たちは、「さみしいのは、よくないことだ」「ひとりぼっちは、みじめだ」などと考えてしまうのでしょうか。
そこには、さみしさという感情を捉える際に起こりがちな、さまざまな思い込みや刷り込み、偏見が隠れています。
本書では、脳科学的、生物学的な視点から、なぜ、さみしいという感情が生じるのかという問いに焦点をあてていきます。また、なぜ、さみしいという感情をネガティブなものと捉えてしまうのか、その科学的要因、社会的要因からも考察していきます。
すべての感情には、意味があるはずです。であれば、さみしいという感情が生じたときにも、無理に抑え付けたり、なかったことにしたりするのではなく、
「そこにはどんな意味があるのか」を考え、理解していくほうが、この感情をスムーズに扱えるのではないでしょうか。さみしさの扱い方に慣れ、その生じる仕組みを理解することで、さみしさを必要以上におそれることなく、振り回されることもなく、上手に付き合いながら、長い人生をより豊かに、穏やかな気持ちで過ごしていくことができるようになるはずです。
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