「工夫しろ」という指示
二〇一五年の五月、東芝は突然決算発表の延期と期末配当の見送りを発表しました。後に明らかになったのですが、この年の二月に証券取引等監視委員会から開示検査を受けて、四月には社内に特別調査委員会を設置していました。会計上の不正が常態化していることが指摘されたのです。
同年の七月には第三者委員会が調査報告書を提出して、当時の社長以下八名の取締役が辞任しました。その後もさまざまな問題点が明るみに出て、多くの事業を売却して現在も再建の途上にあります。
日本を代表する企業の事件だったので報道も多く、記憶している方も多いでしょう。その際にもっとも問題になったのは、業績が伸びない時に利益をかさ上げするようなことが当たり前になっていたという事実でした。
しかも、目標が達成できない時に上層部が強いプレッシャーをかけることが常態化した結果、不正な方法が当たり前になってしまったのです。第三者委員会の報告書にはこう書かれています。
(前略)PC事業を営むカンパニーの歴代のCPに対しては、社長月例の場等において、Pから予算(仮に予算を達成できた場合であっても更に設定された目標値)を必ず達成することを強く求められ、「チャレンジ」の名目の下に強いプレッシャーがかけられてきた。(筆者注:PCはパソコン、CPはカンパニー社長、Pは社長を指す)
「チャレンジ」という言葉が独り歩きして、その達成のために手段を選ばないような状況になっていたことがわかります。さらに達成が難しいとわかると、社長がメールでこのように指示していたことが明らかになりました。
東芝が過去の決算で不適切な処理をしていた問題で、当時社長だった佐々木則夫副会長(六六)が、予定通りの利益を上げられない部署に、会議の場やメールで「工夫しろ」と指示していたことが、九日、関係者の話でわかった。(二〇一五年七月一〇日・朝日新聞朝刊)
「工夫しろ」というのは、まさに「何とかしろ」ということだったのでしょう。本来「工夫する」というのは良い意味で使われます。知恵を絞って、何かを創造するような時に使われます。この場合もたしかに知恵を絞ったのかもしれませんが、その結果はご存じのとおりです。
このような状況が報じられると多くの企業関係者は驚き、批判しました。しかし「他人事と思えない」という人もいたようです。つまり「何とかしろ」というようなリーダーと、それを「何とかしてしまおう」とする風土はいろいろな会社に根強くあるということなのです。