苦しかったぶん、書きたいものが書けた

―― タイトル『花散るまえに』も、決定までにかなり悩まれたと伺いました。

 このタイトルは、玉の辞世の句「散りぬべき時しりてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ」をベースにしています。この歌は通常の解釈では、自分は今が死ぬべきときだという玉の決意の歌ということになっている。でも私は、忠興が父親から受けた最初の教えであり、彼の呪縛ともなっていた自刃の作法「散るべき時を知り、己の命を絶て」ともつなげる形にしたかったので、ここも私なりに大きく解釈を変えてしまいました。最終的に、玉が忠興の愛に対して出した答えとしての歌にしたかったんです。それを受け、忠興も玉に対し、一つの大きな想いを抱く。タイトルも、物語の結論ともいえるそのシーンを象徴するものがいいと思い、このようになりました。すごく悩んだのですが、最後は自分でも納得のいくものが出せてよかったなと思っています。

―― 本当に悩みに悩み抜かれての一冊ということですね。

 愛ってなんなのか、考え悩みながら書くのは本当にしんどくて、途中で書けないかもしれない、もうダメかもしれないと何度も思いました。今までの作品の中で一番苦しかったですね。でも、自分で言うのもおかしいですが、苦しかったぶん、書きたいものが書けたかなとも思っています。
 書かれているのは戦国時代の話ですが、歴史小説だからと身構えないでいただけたらなと。歴史上の人物でも、悩んだり、笑ったり、泣いたり、人を好きになったりという感情の部分は今の私たちと変わらないということを、本書を読みながら感じていただけたらうれしいです。

花散るまえに
佐藤 雫
“愛って何だろう、これも愛なのか、そう悩みながら書いていました” 戦国武将・細川忠興と妻・ガラシャを描いた『花散るまえに』刊行 佐藤雫インタビュー_2
2023年8月25日発売
1,980円(税込)
四六判/336ページ
ISBN:978-4-08-775466-7
今村翔吾氏 推薦!
「たおやかな筆致で描かれる、苛烈な愛のゆくえ。この作品を書く感性をまぶしく思う。」

最初に父親から教えられたのは自害の作法……細川忠興は愛を知らなかった。
玉 (ガラシャ) は、妻として忠興に寄り添いたいと思う。
しかし父・明智光秀の謀反により、夫婦の運命は暗転。
謀反人の娘となって幽閉された玉は、やがてキリスト教の愛に惹かれていく。
一方、忠興は玉の心を失う孤独と恐怖から、刃を振り上げ──。

本当に大切にすべきものは何だったのか。
物語は歴史上もっとも美しいラストシーンへ。

細川ガラシャと忠興、日本史上もっとも歪んだ純愛を描いた歴史小説。
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