苦しかったぶん、書きたいものが書けた
―― タイトル『花散るまえに』も、決定までにかなり悩まれたと伺いました。
このタイトルは、玉の辞世の句「散りぬべき時しりてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ」をベースにしています。この歌は通常の解釈では、自分は今が死ぬべきときだという玉の決意の歌ということになっている。でも私は、忠興が父親から受けた最初の教えであり、彼の呪縛ともなっていた自刃の作法「散るべき時を知り、己の命を絶て」ともつなげる形にしたかったので、ここも私なりに大きく解釈を変えてしまいました。最終的に、玉が忠興の愛に対して出した答えとしての歌にしたかったんです。それを受け、忠興も玉に対し、一つの大きな想いを抱く。タイトルも、物語の結論ともいえるそのシーンを象徴するものがいいと思い、このようになりました。すごく悩んだのですが、最後は自分でも納得のいくものが出せてよかったなと思っています。
―― 本当に悩みに悩み抜かれての一冊ということですね。
愛ってなんなのか、考え悩みながら書くのは本当にしんどくて、途中で書けないかもしれない、もうダメかもしれないと何度も思いました。今までの作品の中で一番苦しかったですね。でも、自分で言うのもおかしいですが、苦しかったぶん、書きたいものが書けたかなとも思っています。
書かれているのは戦国時代の話ですが、歴史小説だからと身構えないでいただけたらなと。歴史上の人物でも、悩んだり、笑ったり、泣いたり、人を好きになったりという感情の部分は今の私たちと変わらないということを、本書を読みながら感じていただけたらうれしいです。