歴史を踏まえて日本の教育を考える
今、日本では教師不足と教師の過重労働が大きな問題となっています。文部科学省の「令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、精神疾患で休職した教師の数は5897人で、過去最多となっています。
教師の長時間労働の原因はさまざまですが、公立学校の教員に残業代を支払われないと定めた法律や休日の部活動などにより、〝定額働かせ放題〞の状況が野放しになっている現状が問題視されています。
日本はもともと教育大国であり、待遇が良くなくてもやりがいを求めて教師を目指す若者がたくさんいました。しかし、過酷な勤務実態はなかなか改善されず、今や若者が教師になりたいと思えないような国になっています。
歴史を見れば、教育に力を入れない国は確実に衰退しています。どうにかして日本の教育を復興させる必要があります。
そこでヒントとなるのが私塾の存在です。日本には近世から近代初期にかけて、私塾が教育の一端を支えていました。
私塾とは江戸時代に儒学者・国学者・洋学者などの民間の学者が開設した私設の教育機関。武芸や技芸を教える塾もあり、身分にかかわらず自由な教育が施されていました。
江戸前期には中江藤樹の藤樹書院、伊藤仁斎の古義堂、中期には荻生徂徠の蘐園塾など儒学の教育が主流でしたが、中期になると本居宣長の鈴屋のような国学の塾が現れます。
そして、後期にはシーボルトの鳴滝塾、緒方洪庵の適塾に代表される洋学塾が見られるようになり、幕末には吉田松陰の松下村塾のように政治的な教育を行う塾も登場しています。
現代では「塾」というと受験のための学習塾のイメージが強いですが、これだけ多様性がうたわれているのですから、もっといろいろな塾があってもいいと思います。
昨今は会社の定年を迎えた人が、大学で学び直すケースも増えていると聞きます。勉強熱心なのは素晴らしいですが、社会で何かをやり遂げた人が教える側に回ることも必要ではないでしょうか。
シニア世代には「私たちの知識はもう通用しない」という遠慮もあるでしょうが、本の読み方や問題解決の仕方など、若者に受け継ぐべき知的資産は少なくないはず。
歴史小説には、前述した『世に棲む日日』のように、私塾をとり上げた作品も多数あります。過去の教育法をヒントに、日本の教育を立て直す動きが盛り上がればと期待しています。
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文/今村翔吾
写真/すべてshutterstock