防大教育問題の根本要因は…
このシリーズで先に大木毅氏や石破茂氏が、防大教育問題の根本要因は、日本国憲法下で自衛隊の存在意義が曖昧にされ、自衛隊のなかで民主主義体制を守るという防衛規範が育ってこなかったことにあると論じている。
筆者も基本的には、両氏と大きく異ならない国家観・安全保障観をもつ者である。
北東アジアの安全保障環境の悪化もふまえるとき、日本の自由民主主義(リベラル・デモクラシー)体制を防衛する実力組織としての自衛隊の存立規範を、社会的・国民的規模で打ち立てることは、急務だと考えている。
したがって両氏が主張するように、自衛隊の存立規範に変化がなければ、防大の教育環境が改善されがたい部分があることは、筆者も否定しない。
しかしながら、防大の教育環境を改善することによって、自衛隊全体によい影響が波及する側面も、確実に存在するはずだ。
加えて、等松教授らが真摯に求めている、防大の教育・人事・事務体制やガバナンスの抜本的な改善は、自衛隊改革全般のなかでも、おそらく技術的に最も「手をつけやすい」部分のひとつではないだろうか。
防大執行部と防衛省当局は、各学術・科学分野の専門家である文官教官の意見、特に中堅・若手教官の意見を聴く「ボトムアップ」の回路を十分に確保し、教育環境とガバナンスの改善に取り組むべきである。
これまで教授しか参加を認められてこなかった防大教授会に、他の大多数の大学と同様、准教授や専任講師を参加させるのは、その初めの第一歩だろう。
最後に強調しておくが、防大と自衛隊そして国防の将来を憂う等松教授は、真の意味での「国士」である。
等松教授はもちろんのこと、実名告発にはいたらない中堅・若手の文官教官、そして心ある自衛官教官や事務官に対して、有形無形の圧力や恫喝が加えられるべきではない。
ましてや、等松教授に不当な懲戒が下されるようなことがあってはならない。
【※】久保校長はアメリカ政治研究で著名な政治学者であり、多数の著作をもつ。テレビにもときどき解説者などとして出演しているので、顔を見知っている読者もいるだろう。慶応義塾大学や東京大学の教授を経て、2021年4月から防大校長を務めている。
等松教授は近代日本をめぐる戦争と外交、戦前期日本の植民地をめぐる国際関係などを専門としており、日本語の著作としては『日本帝国と委任統治―南洋群島をめぐる国際政治 1914-1947』(名古屋大学出版会、2011年)が、筆者を含む研究者の間でよく知られている。玉川大学教授を経て、2009年から防大教授を務めている。
久保校長、等松教授、2人とも政治学者である。
文/石原俊
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