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進学率50%超の「誰もが大学で学べる社会」

高等教育の研究で知られる社会学者のマーチン・トロウは、「トロウ・モデル」という理論モデルを提唱しました。進学率が上昇するにつれて大学を取り巻く環境が変わる、それに伴い教育内容や学生受け入れのあり方、管理経営に関わるスタッフの姿などもみな変わっていく……というのが、このモデルの考え方です。

日本の大学進学率は現在50%を超え、トロウが言うユニバーサル・アクセス型の段階へ入っています。大学は勉強のできる人だけが一部の専門職やエリートを目指して学ぶ場ではなく、「社会に出るため」「周囲がみな行くから」といった理由で誰もが学びに来る場になりました。世界レベルの研究成果を上げる大学から、高校までの学修内容を十分に理解しているとは言えない学生に基礎的な学習スキルを習得させる大学まで、極度に多様化した状態です。もはや一言で「大学はこういうもの」と定義することはできません。

M・トロウによる高等教育システムの段階的移行に伴う変化の図式。『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』より
M・トロウによる高等教育システムの段階的移行に伴う変化の図式。『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』より
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メディアはしばしば、四則演算の教育から始める大学のことなどを批判的に報じます。SNSなどでも入学難易度が低い大学のことを「Fラン」といった言葉で揶揄するコメントをよく目にします。

一般選抜ではなく総合型選抜(かつてのAO入試)で大学へ入学する学生が多いということをネガティブに論じる意見も少なからず見かけます。学生を親身にサポートする取り組みを「大学生にもなって、ここまでするのはどうか」と言う方もいます。こうした言説は、トロウが提示した高等教育の変化をわかっていないものです。

四則演算ができぬまま高校を卒業した方が実際に少なからず存在しているのですから、そうした学生を受け入れて基礎教育を施し、社会に送り出している大学の存在は社会にとって大いに意味があります。

そうした大学を必要とする方々も確実にいるのです。社会全体が変わり、大学の位置づけも変わってきた以上、学生募集や授業のカリキュラム、学生支援のあり方なども合わせて変化していくのは当然です。そうした現在の姿を、従来の大学像を引き合いにして論じることは建設的ではありません。