ムスリムによる『西洋の自死』
ヨーロッパはムスリムをどのようにとらえているのだろうか。
ヨーロッパにおけるムスリムの問題を正面から扱った書に『西洋の自死移民・アイデンティティ・イスラム』(ダグラス・マレー著、東洋経済新報社、2018年)がある。
同書では、ヨーロッパ各国においてムスリムが急増している状況を伝え、このままでは「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」と危機を訴える。
ヨーロッパの大都市では移民・難民が増加しており、2011年のイギリスの国勢調査では、ロンドンの住人のうち「白人のイギリス人」が占める割合は44.9%となり、また2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると多民族化が進む状況を伝えている。
ムスリム人口の増大はヨーロッパ文明の根底にもかかわる。ヨーロッパ文明の根底にはキリスト教がある。ヨーロッパではキリスト教社会の中で、「人権」などの自由主義、民主主義の原理が育まれてきた。それがムスリムの増大によって、ヨーロッパ文明の土台が掘り崩されるのではないかというのだ。
従来、想定されたのはムスリムであっても、欧州で長年暮らすうちに民主主義的な価値観になじみ、それを受容するということだった。しかし、一部のムスリムはコミュニティを作り、欧州の価値観である言論の自由や寛容さ、ジェンダーの平等などよりもムスリムの価値観を重視する。それが進めば欧州社会の亀裂を生み、最終的には「西洋の自死」につながるとする。本書は23カ国語に翻訳されるほど世界的に注目され話題になった。
九州大学の施光恒教授は「欧州『移民受け入れ』で国が壊れた4ステップこれから日本にも『同じこと』が起きる」で、『西洋の自死』を紹介している。
「欧州をはじめ、移民は多くの国々で深刻な社会問題となっている。にもかかわらず外国人単純労働者を大量に受け入れようとするのであるから、受け入れ推進派は最低限、欧州のさまざまな社会問題から学び、日本が移民国家化しないことを十分に示さなければならなかった。現代の日本人はやはり『平和ボケ』しており、移民問題に対する現実認識が甘いのではないだろうか」と指摘する。
「手遅れになる前に、本書『西洋の自死』を多くの日本人が読み、欧州の現状や苦悩を知り、日本の行く末について現実感をもって考えてほしいと思う」と、欧州での出来事が日本でも同様に起こるのではと懸念する。