リンドグレーン作品に着手
宮崎吾朗監督は、2008年の秋以降、児童文学を読み込み映画化を検討するわけだが、しかし、なかなか「この作品を映画にしよう」というところにまで至らなかった。
もっとプロデューサーに近い場所にいた方がいいだろうということで、2008年12月には、鈴木の部屋の隣のプロデューサー室(通称「PD室」。第1スタジオ3階)に席を移動。年が明けてさらに企画検討は続く。この時期、吾朗は国内、海外を問わずいろいろな児童文学を検討した。イメージボードを描いたりもし、宮﨑駿とも話し合いをしている。
その合間には、気分転換も兼ねて、『読売新聞』のコマーシャルの絵コンテを描き、演出を担当した。完成は2009年7月で翌月から放映開始。この作品は宮﨑駿、鈴木の二人が大好きな杉浦茂のキャラクターを使った15秒のCMで、企画は宮﨑駿。いわば初の親子共演作で、短いながらとてもいい感じの作品に仕上がった。
さて、2009年5月、ようやく対象となる児童文学が固まる。『長くつ下のピッピ』などで有名なスウェーデンの作家リンドグレーンの『山賊のむすめローニャ』である。
吾朗はPD室の隣の準備室も使いつつ、この企画の準備を始めた。すると開始早々、たまたまそれを知った近藤勝也が「『ローニャ』だったらやってみたい」と自ら志願。近藤は『魔女の宅急便』『崖の上のポニョ』などで作画監督を務めた腕ききのアニメーターであり、ではやってもらおう、ということで作画監督が決まった。
『アリエッティ』の担当カットを終えた近藤は6月からこの企画に参加。この後、吾朗・近藤の二人によってイメージボード、キャラクタースケッチなどが描かれてゆき、吾朗はシノプシスをまとめた上でシナリオ作りへと進む。
吾朗は9月には完全に席を準備室に移して、近藤とともに『ローニャ』の企画準備に専念。しかし、開始から数カ月経過するうちに、段々とこの企画の厳しさが感じられ始めた。12月に入り、再び気分転換の意図も込めて、鈴木は吾朗・近藤の二人にCMの制作を依頼。今度は日清製粉の110周年記念のコマーシャルだった。
鈴木が以前描いた猫のキャラクターを使い、吾朗が絵コンテを描き演出し、近藤が作画したが、筆ペンの柔らかいタッチで描かれた猫(後に「コニャラ」と名付けられた)がとても可愛らしく、2010年3月から放映されると大変好評で、後に続編が3本作られた。
しかし、『ローニャ』の準備作業はますます重苦しいものになってきていた。