物価停滞が長引いたもう一つの大きな理由

そもそも、デフレはなぜ問題なのかも簡単に説明しておきたい。それは経済停滞をもたらす「原因」になるからだ。

《日本銀行が止められなかった負の連鎖》なぜ日本だけが長期デフレに落ち込んでしまったのか。バブル経済を放置した80年代の経済政策がそもそもの誤り_3

まずは企業部門。デフレになると、製品やサービスの価格を引き上げられないため、売上や収益は伸びなくなる。先述したように企業は人件費を抑えるようになり、家計は賃金が上がらなくなって今度は消費を抑えることになる。家計が消費を抑えると、企業はなんとか値下げしてモノやサービスを買ってもらおうとする。これが物価下落と賃金下落が連鎖する長期デフレの要因となる。

デフレは企業投資も鈍化させてしまう。デフレで借金そのものが重くなるからだ。そのメカニズムは「実質金利」にある。金利はゼロ%でも、物価上昇率によってその重みは変わる。

例えば金利が2%でインフレ率が2%なら実質金利は差し引きゼロだ。それが金利2%のままインフレ率がゼロ%に下がれば実質金利はプラス2%と重くなる。金利がゼロでインフレ率が2%なら実質金利はマイナス2%と軽くなるが、インフレ率がマイナス1%に転落すれば、実質金利はプラス1%となって引き締め的になってしまう。日本経済で起きたことはこういうことだった。

デフレは実質金利の上昇につながるため、企業は借金を減らし、むしろ返済を急ぐことが最善の選択となる。当然、企業の設備投資意欲は失われていく。家計にとっても先行きさらに値段が下がると判断すれば、価格が下がってから商品やサービスを購入すればよいので、消費をできるだけ先送りしようとする。個人消費が伸びないから企業はさらに投資を抑え、それが日本経済の成長力を損なう悪循環となる。

物価停滞がここまで長引いたもう一つの大きな理由は「デフレ均衡」に陥ったからだ。

バブル崩壊と金融収縮でインフレ率は99年にマイナスに転落したが、このときに企業がとった借金返済と投資抑制という行動は理にかなっていた。賃金下落に見舞われた家計が消費を抑えて預金を増やした行動も理にかなっていた。ところがこの合理的な行動によって、経済全体が収縮していく「合成の誤謬」が起きてしまう。景気と物価はさらに上昇圧力を失い、そのまま企業と家計は投資と消費を抑え続ける「デフレ均衡」に陥ってしまった。