ヨーロッパの運命を翻弄し続けた王朝…ハプスブルク家の栄華と足跡
オーストリアを歴史的な側面から見るとき、ハプスブルク家(別名:オーストリア家)の存在は絶対に欠かせません。何世紀にもわたってヨーロッパを広く統治したハプスブルク家は、歴史上もっとも重要な王朝のひとつとして数えられています。
ハプスブルク家といえば、先述のフランツ・ヨーゼフ1世や皇妃エリザベートをはじめ、「中世最後の騎士」と呼ばれるマクシミリアン1世、第6代神聖ローマ帝国皇帝のルドルフ2世など、さまざまな王族が歴史に名を刻んでいます。
なかでも日本人にとってもっとも馴染み深いのは、女帝マリア・テレジアの子であるマリー・アントワネットではないでしょうか。そしてマリー・アントワネットが登場する漫画作品といえば、誰もが知る不朽の名作『ベルサイユのばら』(著:池田理代子)です。
『ベルサイユのばら』はフランス革命前後のベルサイユを舞台に、マリー・アントワネットや、軍人として育てられた男装の麗人オスカルらの生涯をドラマティックに描いた歴史ロマンとして、誕生51年目を迎えた今でも多くのファンを魅了してやみません。
さて、『ベルサイユのばら』略して「ベルばら」の舞台というと真っ先にフランス・ベルサイユ宮殿が思い浮かぶかもしれませんが、実は物語の冒頭にはオーストリア随一の名所「シェーンブルン宮殿」が登場しています。
マリー・アントワネットの生誕地でもある「シェーンブルン宮殿」(ウィーン)は、ハプスブルク王朝の歴代君主が“夏の離宮”として使用していた格式ある宮殿。ヨーロッパでもっとも華麗なバロック用式の建築物として数えられ、その歴史的価値の高さからユネスコ世界文化遺産にも登録されています。ちなみに、「シェーンブルン(Schöner Brunnen)」は「美しい泉」を意味します。
皇室内には1441もの部屋が用意されており、現在はそのうち45部屋が見学ツアー用に開放されています。また、敷地内にある美しい庭園は無料で開放されており、色鮮やかに咲き乱れる花や名物である噴水、彫像などを見ながらゆっくりと散策するのがおすすめ。小高い丘を登った先にあるカフェ「グロリエッテ」からは、「シェーンブルン宮殿」越しにウィーンの街並みを一望できます。
そのほかにも世界最古の動物園「シェーンブルン動物園」や皇帝家の馬車博物館「ヴァーゲンブルク」、5000種以上の植物が生息するヨーロッパ最大規模の温室「パルメンハウス」など、「シェーンブルン宮殿」の見どころは本当に盛りだくさん。
春のイースターマーケットをはじめ、夏にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による一夜限りの無料野外コンサートが開かれたり、冬には幻想的なクリスマスマーケットが行われたりと、さまざまなイベントも開催されています。
ハプスブルク家ゆかりの地としては、マリア・テレジアと神聖ローマ皇帝フランツ1世、マリー・アントワネットとルイ16世(代理人)、フランツ・ヨーゼフ1世とエリザベートなどが結婚式を挙げた「アウグスティーナ教会」も見逃せません。こちらは宮廷御用達の教会として、「ホーフブルク宮殿」に連なる形で14世紀に建設されました。
荘厳かつ華やかな装飾はもちろんのこと、特に注目なのが、教会奥にある「ロレート礼拝堂」。ここにはハプスブルク家の心臓安置所があり、ガイドツアーに参加することで見学することも可能です。
さらに、市内から地下鉄やバスで気軽に行けるウィーンの森には、多数の王侯貴族をはじめ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなども滞在したという温泉保養地「バーデン・バイ・ウィーン」があります。
弱硫黄泉が豊富に湧出する「バーデン・バイ・ウィーン」では、いくつもの温泉施設が点在するだけでなく、ワインの生産地としても有名。歴史ある温泉で心身ともにリラックスしてから、美味しいワインとグルメに舌鼓を打つというプランもよさそうです。
ちなみに、ベートーヴェンが『第九』の大部分を書いたのも、ここ「バーデン・バイ・ウィーン」だと言われており、ベートーヴェンが滞在した家が「ベートーヴェンハウス」として記念館になっています。
さて、ここまで漫画作品や歴史を絡めながらその魅力を掘り下げてきましたが、もちろんこれらはオーストリアの楽しみ方のまだまだほんの一部。
特にスイーツは必食で、ウィーンには多くのケーキ屋が軒を連ねています。マリー・アントワネットの好物だった「クグロフ」やエリザベートも愛した「ザッハートルテ」などは、ぜひ現地で食べておきたいところです。
そのほかにも人気のカフェを巡ったり、バラエティ豊かな伝統料理を味わったり、ショッピングを楽しんだり……気の向くまま、その歴史ある街並みを散策してみましょう。きっと素敵な出会いが待っているはずです。
文/毛内達大