『オルフェウスの窓』とともに歩く“音楽の都”ウィーン
まず紹介したいのが、1980年に第9回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した『オルフェウスの窓』(著:池田理代子)。20世紀初頭のヨーロッパを舞台とし、日露戦争や第一次世界大戦、ロシア革命といった史実を織り交ぜて描かれる、少女漫画の金字塔ともいえる大河ロマンです。
物語は、ドイツ・レーゲンスブルクにある聖ゼバスチアン教会附属音楽学校から始まります。
簡潔にあらすじを紹介すると、この学校の塔には「その窓から地上を見下ろしたとき、最初に視界に入った女性と恋に落ちる。しかし、それは悲劇に終わる」という言い伝えがある“オルフェウスの窓”があり、男装して転校してきた少女・ユリウスはその窓越しに、同日に転校してきたイザーク、そしてバイオリン科の上級生クラウス(アレクセイ・ミハイロフ)と出会い、歴史と運命に翻弄されていく……というもの。
本作は全4部で構成されており、第1部はレーゲンスブルクの音楽学校を中心に描かれますが、第2部ではウィーンへとその舞台を移します。そのため、『オルフェウスの窓』でもウィーンの風景やランドマーク的な建築物がいたるところで描写されているのです。
たとえば第2部の冒頭では、レーゲンスブルクを離れたイザークが、「シュテファン大聖堂」をはじめとするウィーンの街並みを眺めるシーンが描かれています。
「シュテファン大聖堂」は、12世紀半ばに建設された“ウィーンのシンボル“とも呼ばれる教会。オーストリアで一番高いランドマーク的存在で、ウィーンの街を歩けば、どこからでもその姿を見ることができます。
ハプスブルク家の歴代君主が眠る墓所として、また大音楽家モーツァルトの結婚式および葬儀が行われた場所として、その存在を知っている人も多いかもしれません。
建設当時はロマネスク様式だった「シュテファン大聖堂」は、その後、ハプスブルク家のルドルフ4世(1339〜1365年)によりゴシック様式に建て替えられました。その後も改築・修繕がなされ、現在では外観はゴシック様式、内部の祭壇はバロック様式が採用されています。
長きにわたり、手が施されてきたという背景もあり、時代をまたがってのさまざまな建築様式を見られるのも、この教会の大きな魅力。内部では貴重な祭壇や拝堂だけでなく、宝石が施された聖遺物、宗教的な文献、祭服など、多くの文化財を見ることができます。
また、印象的なのが東西南北に建てられた4つの塔。なかでも北塔と南塔は登ることもでき(有料)、特に約136mある南棟では343の階段を登った先から、壮麗なウィーンの街並みを一望することができます。
2001年にはユネスコの世界遺産にも登録された、オーストリアに来たなら、絶対に訪れたい名所のひとつです。
さて、このウィーンで、大型新人ピアニストとして成功を収める『オルフェウスの窓』のイザーク。作中ではさまざまなコンサートホールが描かれていますが、今回注目したいのは「ウィーン・コンツェルトハウス(Wiener Konzerthaus)」(以下、コンツェルトハウス)です。
ウィーンのロートリンガー通りにあるコンツェルトハウスは、皇帝フランツ・ヨーゼフ(1830〜1916年)時代の1913年に完成した由緒あるコンサートホール。「音楽ファンのための夢の殿堂」としても親しまれており、あのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と肩を並べる「ウィーン交響楽団」の本拠地としても有名です。
大ホール(1865席)、モーツァルトホール(704席)、シューベルトホール(366席)、ベリオホール(400席)の4つのホールで構成されるコンツェルトハウスでは、中世やルネサンス・バロックのクラシックだけでなく、ジャズやワールドミュージック、最先端の実験的音楽など、あらゆるジャンルのコンサートが年間800以上も開催されています。
「コンツェルトハウス」は、市全体が芸術の色で染まる「ウィーン国際音楽祭」や古き良き音楽を現代に蘇らせる「レゾナンツ音楽祭」といったフェスティバルの会場としても賑わいを見せます。
また、本拠地としているウィーン交響楽団はもちろん、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン放送交響楽団といった錚々たるオーケストラがコンツェルトハウスで演奏会を開催。毎年12月30日、31日、1月1日にはベートーヴェンの『第九』が演奏されるなど、“至高の音”に出会う絶好の場なのです。
舞台裏を見学できるガイドツアー(有料)では、建築家フェルディナンド・フェルナーらが設計したエレガントな建築だけでなく、運がよければリハーサル風景を見られることも……!
コンツェルトハウスを訪れた際には、ぜひガイドツアーにも参加することをおすすめします。