#2 デビュー以来、勝ちはすべてKO勝利で、アマチュア日本王者を破った雑草魂の夢

坂本会長に生まれて初めてほめられた

児童養護施設出身のボクサーとして知られた坂本博之氏(現SRSボクシングジム会長)は、引退後に全国の施設を訪れ、子どもたちとの交流を通じて支援を続けている。時にはミット打ちで子どもたちのさまざまな思いを受け止める。

かつて千葉県の施設を訪れたとき、同行してミットを持っていた元プロボクサーが「この子パンチありますよ」と声を掛けてきた。坂本氏もパンチを受けると、確かに並外れた力があった。坂本氏は振り返る。

「正確には覚えていないんだけど、俺そのとき名刺を渡したみたいなんだよね。普段はそんなことしないから、何か特別な素質を感じたのかもしれないね」

名刺を受け取った少年の名前は苗村修悟といった。まだ小学6年生だった。苗村の方ははっきりとその日のことを覚えている。

小学校5年生の頃、施設のクリスマス会での苗村選手
小学校5年生の頃、施設のクリスマス会での苗村選手
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「当時の自分は心が荒れていて、施設の環境や人たちが嫌で嫌で仕方なかったんですよ。だから児童養護施設出身の元ボクサーが来るって聞いたときも、どうせおっかない人が来るんだろうなと身構えていたんです。ええ、現役時代の坂本会長のことは知りませんでした。

でも、実際に会うとすごい優しくて、オーラがあって、ボクシングもすげえ楽しくて。こんな人になりたいなって」

記憶が鮮明なのにはもう一つ理由があった。

「自分、ほめられたことなんて生まれてからその時まで1回もなかったんですよ。でも、あの日パンチが強いってほめてくれて、すげえ嬉しかったんです。『ボクシングしたかったら俺のところにおいで』って言ってくれて、そういう、誰かから誘われる経験も初めてだったから、すげえ嬉しくて、いろんな感情がそのときぶわっと芽生えて」