不動産を持っていない男性は結婚しづらい?

綿矢 不動産についてもお聞きしたいのですが、中島さんのご著書『中国人のお金の使い道』では、中国では2020年にコロナの影響で不動産の価格が下がったため、物件を買おうとする人が増えたと書かれていました。また、以前から、不動産の転売も盛んだとも書いてあります。中国恒大集団など大手不動産会社のこともよくニュースで報じられていますが、現在の不動産事情はどのようになっているとお考えでしょうか。

【インタビュー連載 会いたい人に会いに行く!】第1回 綿矢りささん(作家)が中島恵さん(フリージャーナリスト)に会いに行く【前編】_5

中島 最新の不動産事情については、あまり詳しくないのですが、大都市の人は、すでにほとんど不動産を持っているんですよね。都市部住民の96%が持っているという統計もあり、しかも、何軒も持っている人もいます。
 その一方で、地方出身の人には、戸籍の壁というものがあります。中国には都市戸籍と農村戸籍があって、今は仕事の都合で大都市に住んでいても、そこの出身でない人は、大都市の人と同じ都市戸籍ではないため、不動産を購入するハードルが非常に高いのです。
そのような人たちの中には、不動産を買うことをあきらめたり、不動産にあまり興味を持たない人も増えてきています。

綿矢 不動産を持っていないと男の人は結婚しづらい、ということもご著書に書いてあったと思うのですが、今は女性のほうもそのあたりの事情を了承済みで、やいやい言わないという感じなんですか?

中島 その方のバックグラウンドによって違いますね。地方出身の女性は、やはり不動産を持っている男性と結婚したいという願望がまだあると思いますが、男女ともに地方出身だと、もう大都市で購入するのは不可能だと思い、別のこと(海外旅行や、他の好きなこと)にお金を使ったほうがいいよね、という考え方に変わってきています。今の中国は価値観という面でも過渡期にあると思いますね。

綿矢 過渡期なんですか。

中島 先ほども少しお話ししましたが、北京や上海など、大都市の出身者以外の人は、大都市で不動産を持つことは難しいです。しかし、不動産を持っていないと、大都市の戸籍を持つこともできません。
 これまでは、上海の都市戸籍を持っていない人の子どもは、公立の学校に入学できないなどの問題がありましたが、今、政府はそれを改革しようとしています。私が3月に出版する本の中でもその話を紹介していますが、これも「共同富裕」の一環だと思います。

綿矢 すみません、共同富裕というのはどういう概念でしょうか。

中島 社会の格差をなくしましょう、みんな一緒に豊かになりましょう、という国家のスローガン。政策のことです。

綿矢 ニーズに合わせて、少しずつ国全体が変わってきたんですね。

中島 変わってきましたね。人流や職業も昔とは違いますので、それに合わせて制度を変えていかなければ、不公平感が強くなります。政策もそうですけれども、人々の価値観もだんだん変わってきて、メンツにこだわるよりも、等身大の考え方になってきました。
 30歳くらいまでに結婚しなきゃいけないとか、結婚の前に不動産を買わなければならないとか、子どもを産まなければいけないとか、そういう価値観も、若者の間では、ずいぶん変わってきました。

綿矢 なるほど、ありがとうございます。

【後編へ続く】 

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