作家が「今いちばん会いたい人」にインタビューするこの企画。
第1回は、芥川賞作家・綿矢りささんが「中国の人々を知る手がかりとしてご著書や記事を愛読している」という、フリージャーナリストの中島恵さんにお話を伺いました。
20代で経営者に? 中国人の働くモチベーションは? ……中国人の「今」に迫ります!
【前編】 より続きます。
構成/編集部 撮影/冨永智子 (2022年1月21日 神保町にて収録
もう全部持っている人でも、もっとお金持ちになりたい
綿矢 次の質問です。中国ではめまぐるしい変化が起きているため、5年刻みで世代の特徴が語られているというのが面白いなと思いました。「95后(ジウウーホウ)」(1995~1999年に生まれた世代のこと)と呼ばれる世代が、お金を借りてでも使う世代と呼ばれ、何が出てくるかわからないガチャガチャなどにも躊躇なくお金を使うのに驚いた、前の世代の中国の人は物を買うのにすごく用心深かったのに、と中島さんがご著書に書かれていたのがとても印象に残りました。国外旅行などのレジャーも厳しくなった昨今、労働やお金稼ぎのモチベーションはどこに向かうのでしょうか。
中島 やはり、もっと良い暮らしがしたいということが、中国人のモチベーションだと思います。もっと贅沢がしたいとか、もっといい服が着たい、もっといいものが食べたい、もっと自慢したい……。もう全部持っている人でも、もっとお金持ちになりたい、というのが、モチベーションになっていると思います。
綿矢 中国では、エネルギッシュな欲求がある人の方が良いとされているんですか? 良い暮らしがしたい、という気持ちを外に出しても浮かない雰囲気が中国にはあるんでしょうか。
中島 中国でも、本当に洗練されている人々の間では、そういう人は浮いてしまうと思います(笑)。「土豪」(トゥーハオ)という言葉があって、「成り金」という意味なのですが、そういう人を軽蔑するような傾向も都市部では出てきています。でも、中国は広いので、多くの人はよい暮らしをするために、がんばっているんじゃないでしょうか。一見してわかりやすい「お金持ち」になることへの憧れも、まだあると思います。高級腕時計を身に着けたいとか。
綿矢 ブランド品の人気が継続しているということですね。
中島 エルメスを買いたいとか、そういう層もまだまだいますね。
綿矢 “絶対にあれを買いたい!”という気持ちがやる気につながるんですね。エルメスなどに拮抗するような国内のブランドは出てきているのですか?
中島 アパレルや靴などいろいろな国内ブランドも台頭してきましたが、世界的に通用するブランドは少ないです。若い人が好んで中国のブランドを使っているので、それがいずれは世界的に有名になっていく可能性はあると思います。
まだあまり目立たないですが、今、日本にも中国のアパレルブランドがけっこう進出してきているんですよ。中国の化粧品は日本の女子高生や大学生の間でも有名になっていますよね。
綿矢 はい、私も好きです。「花西子 Florasis」というコスメブランドが私は好きで、「毛戈平(MAOGEPING)」のコスメも気になっているのですが、こちらは日本ではなかなか買えません。気になったきっかけは、こちらのコスメを使って化粧をしてる人の大変身の動画を見たからでした。中国の伝統的なモチーフや色を使ったコスメが、今、中国でたくさん売られていますが、日本に実店舗がなかったり、アマゾンで買えるけれど割高だったり、代行でしか買えなかったりします。
中島 まだ中国人のネットワーク以外に大きく広がっていないんですね。池袋の火鍋店とかもそうですが、中華料理、中華食材なども、在日中国人のネットワークの中で広がって、それが少しずつ、感度の高い日本の若者にも浸透していっている感じです。
綿矢 今後、どれくらい実店舗が出てきて、ネットでも気軽に買えるようになるのか、注目しています。