偉大なガンディーは、どんな政治指導者にとっても、引証する価値がある
ところが興味深いことに、モディ首相やBJPは、カシミール問題や対中政策などをめぐって、初代首相のネルーの宥和的な政策を否定するものの、ガンディーには称賛を与え、対外的にも、ガンディーをインドのシンボルとして誇りつづけている。
モディ首相は、故郷を同じくするガンディーが独立運動の拠点としたサバルマティ・アシュラムに、安倍晋三、習近平、トランプといった各国首脳を招いた。また、ガンディー生誕150年となる2019年10月2日の米ニューヨークタイムズ紙には、「なぜインドと世界にはガンディーが必要なのか?」と題する文章を、自身で寄稿までしている。
そこからうかがえるのは、ガンディーの独立を導いたナショナリズム、糸車でカーディー(綿布)を織ったスワデーシー(国産品愛用)運動、人間と環境の調和を求める主張などを切り取って、モディ政権のナショナリズムや経済的自立、再生可能エネルギーの推進策と結びつけようとする思惑である。偉大なガンディーは、どんな政治指導者にとっても、引証する価値のある偶像なのだ。
ガンディーはインドが世界と接するときの貴重なツール
もちろん、モディ政権のパキスタン空爆や、ムスリム、ジャーナリスト、その他反体制派の抑圧といったニュースが、インドの国際的イメージを傷つけているのは間違いない。非暴力と平和主義、自由、寛容、多様性のあるインドはどこへ行ったのか? 厳しい問いが、とりわけ欧米から投げかけられているのは事実だ。
モディ政権が、ガンディーの偶像を放棄せず、むしろ積極的に、ガンディー主義(の一部)にコミットしていることをアピールさえしているのは、そうした批判を意識したものともいえるのかもしれない。ガンディーは依然として、インドが世界と接するときの貴重なツールでありつづけている。
2022年12月から、インドは世界主要20カ国・地域(G20)の議長国となったが、モディ政権は各種会合をデリーだけでなく、インド各地で開催すると発表した。
その前月のG20サミットで、インドネシアから議長国を引き継ぐにあたり、モディ首相は、「仏陀とガンディーの聖地」で、平和への強いメッセージを発すると述べるとともに、「皆さんは、インドの驚くべき多様性、包摂的な伝統、文化的豊かさを十分に体験されることでしょう」と胸を張った。G20をインドの魅力を世界に知らしめる機会にすることができると考えているのである。
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