自分を認めてくれなかった母親の呪縛から逃れられない

とはいえ、ヤスコさんは特異な母親ではありません。子育て中のお母さん、お父さんの多くが、「自分の親は子どもをすぐに叩く人だったから、私は叩かないようにしよう」「話を聞いてくれなかったから、僕は聞く耳のある親になろう」と一度は決意します。ところが、自分が経験したパターンしか知らないため、つい育てられたように育ててしまいます。自分の親の子育てに疑問を持っているのに、無意識のうちに親を真似てしまいます。

ヤスコさんと話をすると「自分はダメな人間だ」と自己肯定感の低さやコンプレックスが見受けられました。高学歴で社会的な地位もあるのに、自分を認めてくれなかった母親の呪縛から逃れられないのです。常に不安がつきまとうので、感情が乱されやすい傾向にありました。

夫のほうは、私との面談に一度だけやって来ました。妻に言われ嫌々ながら、だったのでしょう。険しい表情で持論を語り始めました。

「仕事は管理職です。私の中のポリシーに従って人付き合いというか、人とのかかわりをすごく考えてやってきた。私が築き上げた人間関係のルールというものとは、娘は真逆の行動をしている」

「育てられたように育てたい」「自分を認めてくれなかった母親の呪縛から逃れられない」自由に遊ばせるイベントで子供に指示を出しまくる高学歴親たちの身勝手_5
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いかに自分が正しくて、いかに娘が悪いか語りだす父

そう言って、自分の娘がいかに間違っていて、自分が正しいかをとうとうと語るのです。

「娘が幼少期のころも、私が良かれと思っていることを伝えたり、注意しただけなのに、娘からは反抗されるし、妻からは虐待に近いからやめなさいと叱られた。まったく承服しかねる。次女は私が言ったことを聞き取ってそのように行動して、学校でもうまくやっている。それなのになぜあの子だけ許容してあげないといけないのか。全く理解できない。だから、これ以上長女を受け入れる気はありません」

そして、最後に言った言葉が衝撃的でした。

「この子が生まれることが予測できていたなら、私は妻と結婚しなかったと思います」

自分の価値観が絶対なのでしょう。自分と異なる意見に対し非常に頑(かたく)なでした。

ほかにも、自分は親にスパルタで育てられたが、その教育のおかげでここまで来たという「生存者バイアス」がありました。サバイブ(生存)した、つまり何らかの苦しみを乗り越えた自身の感覚のみを基準として判断してしまうのです。サバイブできなかった側の気持ちを考えられないため、娘にも厳しく接していました。
その点は、高学歴で優秀な父親に見られる特徴のひとつでしょう。

さて、ここまで読まれた皆さんは、自分たちの子育てを否定されたと感じるかもしれません。しかし、私は親御さんたちの不安を煽りたいのではなく「正しい知識を持ってかかわれば、いつからでも子育てはやり直すことができ、子どもは良く育ちますよ」と言いたいのです。

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#3『この子の幸せのためだから…5歳児にサイン・コサインを教える呆れた高学歴親。「バランス悪い脳に悩む子供たち」』はこちら

『高学歴親という病 』(講談社+α新書) 
成田奈緒子
2023年1月20日
990円
192ページ
ISBN:978-4065302125
ノーベル賞科学者山中伸弥氏、推薦
「子育ては『心配』を『信頼』に変える旅――同級生の成田先生の言葉が心に響きます。
僕は成田先生を医師、小児脳科学者、そして人として、とても信頼しています」

山中伸弥氏との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』が
ベストセラーになった子育ての第一人者・成田奈緒子医師、待望の続編。

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