日本市場でのハリウッドの存在感のなさ
クリストファー・ノーランやドゥニ・ヴィルヌーヴのような巨匠と呼ぶにはまだ若い一部の選ばれた映画作家たちが、IMAXをはじめとするラージフォーマットでの撮影や上映に注力し、作品が長尺化していることは、その最終地点へと向かう助走と捉えることもできる。
もう一点言及すべきことがある。日本の映画マーケットにおけるハリウッド映画の興行価値の凋落だ。
2000年代後半から顕著になっていたその傾向は、コロナ禍において作品の供給が一時的に激減したこと、供給が平常化して以降も外国映画興行の全盛期を支えてきた年配層の映画館への「戻り」が最も鈍いこと、2010年代を通じて外国映画興行において圧倒的なシェアを占めてきたディズニーの経営方針がディズニープラスのサービス開始とともに変化したこと、そしてもはや全世代の観客がターゲットになりつつある国内アニメーション作品の隆盛などが重なって、決定的なものとなってしまった。
映画メディアで10年近く毎週興行分析をしている自分にとっては日常の風景でしかないのだが、日本国内の映画興行史、ひいては日本の欧米文化受容史において重大なこの地殻変動については、それだけで新書一冊分くらいの分析や論考を費やす意義はあるだろう。きっと暗い気持ちになるばかりなので、あまり楽しい執筆作業にはならなそうだが。
文/宇野維正 写真/すべてshutter stock