外国出身者に日本の常識を押し込む教育

外国出身の子らはこうした「枠にはめる」指導方法を疑問視する。

「慣れない日本食の給食を最後まで食べるよう強制された」「母国で経験がなく苦手な水泳の授業を休んだら連帯責任としてクラス全員が教員に怒られた」。家族の都合で12歳のときに中国から移住した女性(22) が日本での中高時代を振り返る。日本人と同じ水準を求める指導に精神的に追い詰められ、不登校になったという。

文科省によると公立学校で日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は21年度時点で4万7619人と、08年度に比べて1.6倍超になっている。今後も教室に集まる生徒は多様になっていく。日本式の指導を押しつけることに苦痛を感じる子どもがいることを学校側は忘れてはならない。

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授業でも子どもが萎縮して積極的になれない

海外の教育に触れた帰国子女らも違和感を抱く。18歳までスペインで過ごし、小学校は日本人学校、中高は現地校に通った都内の会社員、下山泉紀さん(25) は「日本の学校は暗記中心で多様な答えを認めないことがあった。授業でも子どもが萎縮して積極的になれない」と話す。

徳島県の私立高校から世界トップ級の米スタンフォード大に合格した松本杏奈さん(18)もなじめなかった一人だ。日本で生まれ育ったが学校では「授業中の質問が多すぎて問題児扱いされた」。

転機は高2の夏に参加した世界の科学者らとの交流会。ノーベル賞受賞者を多く出す米マサチューセッツ工科大の教員に「どんなにばかなことでも質問しなくてはいけない」と言われ、「質間することが良しとされる世界に行こう」と決意した。

海外進学の希望を聞いた高校の教員からは前例のなさなどから懸念する声が出たが、大学教員の指導を受けて研究活動をするなど実績を積み自力で狭き門をこじ開けた。現在は米国で機械工学を専攻している。

子どもを枠にはめて主張や疑問を抑え込んできた日本の学校教育。広い世界に飛び立とうとする若者らをどう支えるか。大人たちの対応が問われている。

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『「低学歴国」ニッポン』
日本経済新聞社
2023年5月9日
990円
216ページ
ISBN:978-4296117376
大学教育が普及し、教育水準が高い「教育大国」――そんなニッポン像はもはや幻想?
日本の博士号取得者数は他先進国を大きく下回り、英語力やデジタル競争力の世界ランキングでも年々遅れをとっている。      

とがった能力の子をふるい落とし、平均点の高い優等生ばかり選抜する難関大入試。世界の主流とずれる4月入学。理解が早い子にも遅い子にも苦痛なだけの「履修主義」指導……。

岩盤のように変化を忌避する学校教育はいま、私たちの未来をも危うくしている。   
世界をけん引する人材を輩出するには、「何」を変えればいいのか。教育の今をルポし、わが国が抱える構造的な問題をあぶり出す。

【目次】
はじめに 日本人の「低学歴」化を見つめる
第1章 変わらない日本の「学校」
第2章 いびつな日本の「学歴」問題
第3章 二極化する「入試」、形骸化する「偏差値」
第4章 「学校崩壊」避けるためにできること 
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