暴行事件で昇格をフイにした次官候補…
33年間積み上げてきた実績を一瞬で
セクハラ騒動で事務次官を辞任した福田淳一、こんなハレンチな事件で霞が関最高位の次官がその座を追われるとは想像だにしなかった。そうした衝撃のほとぼりが冷めやらぬ2022年5月、官房長就任が有力視され、次官昇格もほぼ確実と見られていた小野平八郎総括審議官(89年)が、泥酔状態で暴力行為に及び逮捕された事件は、もはや想像の域を超えて返す言葉が見つからなかった。最強官庁の名をほしいままにしてきた財務省に、世の中の常識からかけ離れた不祥事が、なぜこれほど相次ぐのか……。
それにしても、小野のケースは「理解不能」としか言いようがない。終電間近の電車の中で、他の乗客から足を踏まれたと注意され、それがきっかけで口論になり、小野が殴る蹴るの暴行を働いたというものだ。警察の取り調べに「酔って覚えていない」と供述したそうだが、いかに泥酔していたとはいえ、そこまで自分を失って相手に暴力を振るうことができるものだろうか。
かつて新聞記者として旧大蔵省の記者クラブを担当した経験から、多くのキャリア官僚と知り合いになった。彼らの優秀さを形容する表現は枚挙にいとまがないが、大蔵省は金庫番として守りの官庁である制約から、政治家のごり押しにも決して取り乱すことのない「自己抑制」の精神に富んだ人物がほとんどだった。まして出世の階段を昇れば昇るほど、そうした精神の安定性がいやでも求められるようになり、極論すれば、いかに自分を抑えられるかが次官レースの最後の勝敗の分かれ目になると言ってよかった。
小野が務めていた総括審議官は局長級ポストで、次官に辿り着くまで官房長―主計局長のコースを残すのみ。人事は時の運も作用するので確実に次官になれたかどうかは神のみぞ知るところだが、省内の観測は「ほぼ確実」で一致していたと言われる。それほどの人物が酒の上の出来事とはいえ、入省以来33年間積み上げてきた実績をなぜ一瞬にして棒に振る暴挙に出たのか。「魔が差した」などという通俗的な言葉で片づけられない深い心の闇があったとしか思えない。