「オンライン編集長」は「紙雑誌の編集長」より職位が低い
4年後には全滅するかもしれない「紙の雑誌」。著名媒体の編集部員たちにこの事実を突きつけてみると、危機感を口にはするものの新たな行動を起こす気まではないように見える。オンライン編集部に「紙の雑誌」編集部の主力が投入されないのも、そうしたことの表れかもしれない。
その理由を聞くと、「社内での職位が『紙の雑誌の編集長』よりも、『オンライン編集長』の方が低い。『紙の編集部』の副編集長クラスが、『オンライン編集長』だ」「『紙の雑誌』には歴史がある。経営陣は『紙の時代』しか経験していない」という。ただ、確かに仮にデジタルに軸足を移し「主力」とみなすにしても、広告収入に頼りきる無料ニュースの「一本足」だけでいいのかというのは甚だ疑問だ。
有料デジタル化の強みは、優良な読者からの「ロイヤリティ(忠誠心)」だ。無料ニュース編集部を悩ませるのは、記事ごとに起きる読者の大変動にある。アフリカ・サバンナの「グレイトマイグレーション(動物の大移動)」のごとく、今日の読者が明日いるとは限らない。さらには、Googleから得られる広告単価もコロナ禍で激減したというトラウマもある。安定的な収入を得るのは難しく、危機が起きてもいいようなコストでしか記事をつくることができていないのだ。無料ニュースの編集部には、全くといっていいほど余裕はない。
有料デジタル化によって、課金する読者に「メディアを使い倒そう」という意識が強くなり、PVは安定していく。そもそも、PV獲得のみを目指した記事をつくる必要性が低くなり、ヤフーニュースやスマートニュースなどといったプラットフォーマーからの要望に対して余裕を持って対応できる。それは、無料ニュースよりも広告価値が高い読者を抱えることを意味する。有料デジタルは「紙の雑誌」と親和性が高く、事業が軌道に乗るまでの初期コストを回収できれば、たとえ中小出版社であっても、存在感のある雑誌は高い収益率をもって存続していくことが可能になる。成功すれば、いいことずくめなのが有料デジタルといえる。