息をするのも忘れるくらいのめりこんで読んだ1冊
17歳の夏、自分の力で生きていくと決め親元を離れた花。血の繋がらない女4人で始めた楽しい共同生活は次第に困窮し、花はみんなの居場所を守るため、カード詐欺に手を染めていく。金とは何か、罪とは何かを鋭く問いかける長編小説。
今や世界的作家であり、国内でも女性たちから圧倒的に支持されている川上未映子さん。そんな彼女の最新作は、もう2023年のベストと言ってもいいくらい面白かった! 私自身、ふだんは犯罪小説なんてまったく読まないのだけど、この本だけはノンノ女子たちにも絶対読んでほしい! 続きが気になって一気に読めてしまうし、きっと心に『いい』傷跡を残してくれると思うから。
貧困と、その周辺にある差別、虐待、経済的弱者の自立の難しさ――この時代に見過ごせない社会的な問題を重層的に描きながら、物語は生きのびるために罪を犯すしかなかった彼女たちに並走し、ともに暗い夜を駆け抜けていく。
「だから彼女は悪くない」なんていう単純な結論ではなくて、この小説を読み終えた後では「誰が悪いのか? 」なんて問いが無意味に感じられるくらい頭が複雑にこんがらがっている。でも、この複雑さを抱えて生きていこうよ、と思うのだ。
"孫の恋人に会いたい"と願い続けていた祖母が急逝し、葬儀のために地元へ駆けつけた清陽。最後まで彼氏を紹介できなかった理由は、自身の親族にあったが……。「おつやのよる」をはじめとする、心を温かく包み込むような5編。
他人には見えない"黄色いコート"に身を包んで生きるホラウチリカ。ラテン語が得意な彼女は、大学の恩師から仕事を紹介される。その内容は、博物館に展示されている古代ローマの女神像のおしゃべり相手をすることで――。
"人間関係にもし失敗したら?""頑張って入った大学なのに、なぜかつまらない" ……etc.。誰もが不安と期待の間を揺れながら歩む大学1年生の12か月を、大学教員でもある人気ライターがガイドする新入生専用マニュアル。
2023年6月号掲載
選書・原文/花田菜々子 web構成/轟木愛美 web編成/内山英理