ソダーバーグ監督を前にしても堂々としていた息子

一見エキストラか、またはそれ以下の背景(アトモスフィア)のようにも思われるこの役。だが、合格してみると、そのような役に対しても予算のかけ方はお見事だった。いざ現場に行ってみれば、素敵な子供部屋のセットが微に入り細にわたり作り上げられていた。衣装さんはパジャマを3種類用意。さらにはコーヤが使用するトレーラー(大型テレビにエアコンに冷蔵庫付き!)まであるという豪華さ。

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コーヤに用意された豪華なトレーラー

そのソダーバーグ監督は撮影中、私とコーヤが小道具で遊んでいる子供部屋に飛び込んできた。全身真っ黒の服で、キャップも黒。言葉は非常に少なめ。「いつも寝るときはどんなふう?」。“きゃー! ソダーバーグ!”と舞い上がる母の横で、コーヤは冷静に、いつものとんでもない寝相を監督にして見せた。かけ布団は蹴られ、両脚は全開だ。「よし、それで行こう」。監督の決断は早かった。

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ロイター/アフロ
『エリン・ブロコビッチ』、『トラフィック』、『オーシャンズ』シリーズなどで知られるスティーヴン・ソダーバーグ監督

できあがった作品を見ると、出番は作品冒頭のワンシーンのみ。ベッドで寝ている我が子を父親役の俳優が眺めるというもの。時間にして数秒。映し出されたのは、引きと寄りのワンカットずつ。その後はすぐに主演のゾーイ・クラヴィッツのシーンに移り変わる。
それだけの出演のために、スタジオがコーヤにかけた時間とお金たるや。ハリウッドの凄さを垣間見た思いだった。

もともと親としては、本人に興味があれば……ぐらいのスタンスで子役活動をやらせているのだが、いかんせん、遊びたい盛りの小中学生。キャスティングのために送るセルフテープ(自分で撮るオーディション動画)撮りや練習をめぐって、母子の衝突はざらに起きる。その度に私は、子役活動から引退したいかどうかを確認するのだが、子らは「やめない」と言い張ってカメラの前にしぶしぶ立つのだ。

「オーディションに落ちても落ちてもなぜやめないか」としばしば考える。それはつまり、ハリウッドの撮影現場がどんなに楽しいところか知っているからなのだと思う。合格して、またあのワクワクを味わい、おもしろい大人たちに交じって働きたいからに違いない。

さて、先日受けた大作、結果はどうなったか……。いや、終わったオーディションは忘れて次に進むとしよう。

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『KIMI/サイバー・トラップ』(2022) Kimi上映時間:1時間29分/アメリカ
スマートスピーカーによる音声チェックを生業とするアンジェリーナ(ゾーイ・クラヴィッツ)は、ある日殺人事件を疑わせる音声を耳にする。女性の悲鳴、殴られる音、ぶつかる音……そして、銃声。外出できないほどの広場恐怖症を抱えるアンジェリーナが勇気を出して向かった先には、彼女の命を狙う謎の暗殺者たちが待ち受けていた。

6月3日DVDレンタル開始
「KIMI/サイバー・トラップ」
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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