「標語」が招く致命的な結果

「皇軍無敵」に「一撃必殺」。日本軍を敗北に至らせた四文字熟語が持つ“魔力”_3
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そしてこういった引用句は、標語(モットー、スローガン)に変質することがある。漢字圏ではその傾向が顕著だ。第一次世界大戦後のドイツで再軍備を主導したハンス・フォン・ゼークトはこの「標語」を自著『一軍人の思想』で取り上げ、「自己の頭脳をもって思考し得ない人々にとっては必要欠くべからざるもの」と喝破した。

とくに軍人の世界では、標語は致命的な結果を招くこともあると彼は警告する。それが悪意から出たものでなくとも、思考を欠いたものであるために、数千の人命が犠牲になるからだという(『一軍人の思想』篠田英雄訳、岩波新書、一九四〇年)。

この『一軍人の思想』の和訳本は昭和15年に出版されており、多くの軍人も手にしたことだろう。それなのに日本ではモットーやスローガンが野放しになり、冷静であるべき軍人までが巻き込まれて言葉に酔ってしまい、本来あるべき思考というものが奪われる結果になってしまった。

たとえばここに「皇軍無敵」という標語がある。これも当初は「そうあって欲しいものだ」という願望だったはずだ。ところが始終目にしたり、口にしたりしていると、そして実際に連戦連勝が続くとなると、本当に「皇軍無敵」だとの思い込みに発展する。そこまでならばまだ救いがあるが、さらに「無敵なのだからなにをしても勝利する」と飛躍してしまうと大変だ。よく考えもせずに戦略方針までをねじ曲げてしまうから、収拾が付かなくなってしまう。

文/藤井非三四 写真/shutterstock

「勝者は学習せず、敗者は学習する」太平洋戦争の敗戦を決定づけた“日本人特有の戦い方”
日本軍“史上最悪の作戦”インパールの惨敗を招いた「恥の意識」と「各司令部の面目」

太平洋戦争史に学ぶ 日本人の戦い方
藤井 非三四
「皇軍無敵」に「一撃必殺」。日本軍を敗北に至らせた四文字熟語が持つ“魔力”_4
2023年4月17日発売
1,056円(税込)
新書判/272ページ
ISBN:978-4-08-721262-4
負けるには理由がある
この国が今なお抱え込む「失敗の本質」を深掘りした日本人組織論の決定版!

【推薦コメント】
あの戦争において、大日本帝国がいかにして失敗のスパイラルに陥って行ったかを克明に描き出している。
あの戦争をやってしまった日本社会の実質は、何も変わっていない。
────白井聡氏(政治学者・『国体論 菊と星条旗』『武器としての「資本論」』)

【おもな内容】
太平洋戦争史を振り返れば、日本人特有の「戦い方」が敗因となったと思われる事例は極めて多い。
人間関係で全てが決まる。
成功体験から抜け出せず、同じ戦い方を仕掛け続ける。
恥と面子のために方針転換ができず泥沼にはまり込む。
想定外に弱く、奇襲されると動揺して浮き足立つ。
このような特徴は今日の会社や学校などの組織でも、よく見られる光景ではないだろうか。
本書は改めて太平洋戦争を詳細に見直し、日本軍の「戦い方」を子細に分析する。
日本人の組織ならではの特徴、そしてそこから学ぶ教訓とは。
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