四文字熟語が持つ“魔力”

実はこの四文字熟語の洪水は、戦後も長く続いた。「財閥解体」「公職追放」「農地解放」「戦争放棄」で民主国家・平和日本の確立だ。「所得倍増」「沖縄返還」「列島改造」なども耳朶に残っている。

最近になると漢籍に通じた物知りが少なくなったためか、それとも国全体の東洋的な教養程度が低下したのか、これといった四文字熟語にお目にかかれなくなった。それに代わってか、和製英語とも言えない横文字やカタカナばかりが横行しているようで、これに辟易している人も多いはずだ。

「皇軍無敵」に「一撃必殺」。日本軍を敗北に至らせた四文字熟語が持つ“魔力”_2
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練りに練った四文字熟語となれば、もちろん本場は中国だ。昭和15年8月から12月にかけて華北にあった中国共産党系の八路軍は、日本軍に対して大遊撃戦を挑み、一〇〇個連隊(団)を動員したと豪語、これを「百団大戦」と称した。実際にはそれほど大きな打撃を日本軍に与えたわけではないが、このネーミングによって八路軍は強大というイメージが定着した。

やがて日本が無条件降伏をすると、蔣介石総統は「以徳報怨」=[徳をもって怨に報いる]と国民に呼びかけた。これを耳にした多くの日本人は、「これで完璧に負けた」と思わされたことだろう。そして、今日なお北東アジアの情勢を規定している中国の朝鮮戦争介入は、「抗美援朝、保家衛国」(美は米国を指す)が目的であるとした。これもまた名文句としてよいだろう。

では、この見出しなどによく使われる四文字熟語とは、一体なんであるのか。その多くは古典や名著などにある一節を引用したものだ。そうすることによって、論調などに知性や教養の香りを含ませる。さらにそれは単なる思い付きなどではなく、裏付けがあることをほのめかすことができ、安心して読めるもの、信じてよいことだと広く感じさせる効果が期待される。

これはもちろん西欧でもよく行なわれることで、軍事の分野でもギリシャの古典や聖書、フリードリッヒ大王やナポレオンの言行録、そしてクラウゼヴィッツからゲーテの著作にまでおよぶ引用句がよく見られるという。西欧の場合は表音文字だから、このようなものに接するとまずは読んで反芻して意味を知り、さらには原典に当たって真の理解にいたる。

それに対して漢字は表意文字、象形文字だから、目で見ただけでおおよその意味がわかり、出典などを知らなくとも理解したとの満足感が味わえてしまう。しかし、それがまさに「一知半解」につながるわけで、おおいなる誤解に陥りやすい。