動画配信サービスが地殻変動を引き起こした

ゲームチェンジャーとなったのは、2013年に配信が始まった『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で、動画配信サービスのNetflixがオリジナルシリーズでメガヒットを飛ばしたこと。当時、2017年には従来のレガシーメディアと動画配信サービスの台頭による作品数の激増、製作費の高騰といったバブルははじけるだろうとの予測があったが、やや鈍化したとはいえいまだに成長の一途にある。

同時に、Netflixを筆頭とする動画配信サービスは映画業界を巻き込む形で業界の土台から構造を変える地殻変動を起こした。それはその昔、TVが登場した時、あるいはビデオとレンタル店が登場した時のインパクトか、あるいはそれをしのぐものかもしれない。

動画配信サービスが映画監督の救い手である理由_c
『ハウス・オブ・カード』のロビン・ライト・ペン(左)とケヴィン・スペイシー
Everett Collection/amanaimages

ひとつの例としてウォルト・ディズニー・カンパニーを見てみよう。2020年10月に抜本的な組織改変を行った同社は、全体として自社の動画配信サービス、ディズニープラスを筆頭に配信を強化する体制にシフトした。良いか悪いかは別にして、作った作品を「どこでアウトプットするか」といった発想に変わったというのが事実だ。これにより映画公開から作品配信までのシアトリカルウィンドウが45日間よりもさらに短いパターンもあるなど、映画ファンにとっては悩ましい問題も浮上している。

しかし、現実として大手スタジオはこれに準じる形で組織改変が進んでいる。ディズニープラス(旧FOX含む)、HBO max(ワーナー)、Paramount+、Peacock(ユニバーサル)など、ハリウッド大手スタジオは動画配信サービスを中心に映画・TV作品の製作や配給、放送、配信といった全体のエコシステムを考えるようになっている。

さて、業界話を超ざっくりと振り返ってみたのは、こうした状況下でなされている「配信映画は映画なのか否か」といった議論が、どうせやるなら現状を踏まえた上でもっと建設的になされるといいのになあと思うからだ。劇場至上主義 or 全部配信で十分といった極論は、真っ当なファンなら口にしないはずだが、よく見かけるのは残念なことだと思う。そもそも何物にもかえがたいシアター体験は、はからずしてコロナ禍で改めて特別なものであると再認識されるようになった。

一方で、どうしても東京中心に語られがちな、特に公開規模の小さい作品の話題には乗れない地方在住の熱心な映画ファンの声は、私はSNSでよりダイレクトに感じられるようになった。多くの観客は双方のいいところ取りをしながら使い分けることで、以前より多くの作品を楽しんでいるというのが現状ではないだろうか。