秩父宮が「ラグビーの聖地」でなくなる

試合や観戦の環境が悪化するのは、秩父宮ラグビー場も同様だ。東京五輪が開催された新国立競技場の左下に位置する建物イメージを見れば分かる通り、新しいラグビー場は屋根付きに変わる。この屋根は開閉しないため、天候を味方につけるラグビーの醍醐味も喪失するだろう(⑦)。

ほかにも以下の理由で試合・観戦の環境が悪化する。

・天然芝から人工芝に変更されるため選手の怪我リスクが増大する 。
・ライブ、バスケ、アイスショーも可能な多目的施設になるため「ラグビーの聖地・秩父宮」としての価値が喪失する。
・収容人数が4割減(2万5千人→1万5千人)でチケット入手がさらに困難になる。

*秩父宮ラグビー場の価値の詳細は、元日本代表 平尾剛氏が同ラグビー場に特化して立ち上げたオンライン署名の説明文参照

また、その東に位置するU字型の絵画館前の芝生広場には、あたかも軟式野球場も樹木も現在と同様に残るように描かれているが、これは先ほど説明したのと同様の理由(別事業を理由にテニスコート移転は未反映)で実態とは異なる(⑧)。

ちなみに、移転してまで残る神宮外苑テニスクラブは、料金が高額(入会金は66万円〜、月会費は1万5千円〜)なため利用者は限られる。その一方、公益性の高い他施設(軟式野球場、ゴルフ練習場、フットサルコート、バッティングセンター等)は全て廃止。これはSDGsの目標である「不平等の根絶」にも反しており、今回の再開発が一部の事業者や富裕層の利益を最優先していると言われても仕方がない状況だ。

<神宮外苑再開発>「環境破壊」以外にもデメリットが山積。東京都がひた隠しにしてきた10年間の入念な「下準備」_4
4月9日、都庁前の抗議デモに集まった市民

神宮野球場のさらに2年前(1924年)に完成した甲子園球場は、改修工事のみで今後も継続使用の方針で、神宮野球場及び秩父宮ラグビー場(1947年完成)も適切なメンテナンスを行えば今後も維持することは可能なはずで、現に神宮野球場は2014年~2016年に耐震補強・リニューアル工事を行なったばかりだ。また、明治神宮テニスクラブは、インドアテニスコートの改修工事を2015年に実施したばかりと、これらの施設はそもそも移転・建て替えの必要はないのではないか。