劇場→レンタル→見放題で映画を循環させる

前年比16.7%・4,508億となった定額制動画配信市場。「年に数人しか見ない映画でも配信する」動画配信大手のU-NEXT映画部が習い目指すのは、レンタルビデオ店の最終進化系_2
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U-NEXTにて好評配信中

──映画ファンの間では、劇場公開から配信までが早いと劇場に行かなくなるといった議論もありますが。

その懸念が当てはまるのは、公開後すぐにSVOD配信になる映画の場合であるように思います。高額TVODの仕組みは、中規模やミニシアター系の作品など、東京や都市部以外で鑑賞するのが難しいタイトルにこそ、映画ファンの需要があると思っています。

実際に地方の映画ファンの皆さんには喜ばれていますし、その分、映画製作側にも還元ができるので、意味のあることではないかなと。映画館はスクリーン数も限られており、どうしても人気タイトルに編成を集中せざるを得ない部分があるので、映画の多様性を守る受け皿になれたらという思いもありますね。

ただ、配信作品の買い付けにおいても当然、「ビッグタイトルはこれだけの人が視聴してくれるから、こちらに投資しよう」というふうに、数字だけ見ていると、どうしても多様性が作りづらくなる。どうにかそこを我慢して、年に数人にしか視聴しないようなタイトルも入れていく。これもまたレンタル店から教わった姿勢です。

昔、小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の作品のVHSを店頭に並べているお店があって、年に1回しか貸し出されないものもあったらしいんです。でも店主は「置いておかなきゃ駄目なんだ、それがないとお店じゃないんだ」と言っていました。U-NEXTでは黒澤明監督作を29本、小津は35本、成瀬は17本揃えるなど、まさに同じことをやっているわけです。

前年比16.7%・4,508億となった定額制動画配信市場。「年に数人しか見ない映画でも配信する」動画配信大手のU-NEXT映画部が習い目指すのは、レンタルビデオ店の最終進化系_3
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また、リクエストの仕組みも整備しました。今では年間3,000本を超えるリクエストに、映画部のメンバー5人で対応しています。それ以前もエゴサをしたり、送っていただいたメールなどからユーザーさんの声を拾っていたのですが、仕組みができたことで、さらに本数が増えましたね。

実際にこの2〜3年で、ユーザーや映画業界のみなさんからU-NEXTに対する信頼度を肌で感じられるようになりました。僕らの考え方がじんわりと伝わってきたのかなと。まだまだ途上ですが、手応えは感じています。

──映画館で映画を見るのがベストではあるけれど、家庭環境や住んでいる場所、仕事などによっても、劇場に足を運べる機会が物理的に制限されてしまう人も多いと思います。U-NEXTさんのような動画配信サービスなど、何らかの形で映画とつながっていられることが、業界にとっても重要に思えます。

僕らが目指しているのはまさにそこです。いろんな映画の見方、自由な選択肢を用意するということなんですよね。映画館で見る体験は特別ですし、映画館で見逃してしまった新作はTVODで見ていただけたらと。そしてアーカイブは見放題で見ていただく。アーカイブを見て、ある監督やキャスト、ジャンルに興味を持ったら、今度は新作を映画館に見に行く。この循環を作ることが大事だと思っています。

何らかの理由でこの循環が断ち切られると、「もう映画を半年ぐらい見てないよ」といったことが普通に起こり得ます。そこの循環を途切れさせないように、映画がずっと生活の中にあるという状態を作れたらいいなと思っています。

特にコロナ禍では、緊急事態宣言などで映画館に行きたくても行けなくなってしまった。人が映画館に行かなくなったら、映画が忘れ去られるんじゃないかという恐怖のようなものも業界内にはありました。そんなとき、僕らは配信でもいいからまず映画を見てほしいというメッセージを送りました。それはU-NEXTのユーザーさんに関しては伝わったと感じています。映画の循環が切れるどころか、さらに情熱が増したように感じましたし、それが実際に数字にも表れていました。

大きな話になってしまい、おこがましいのですが、僕らのゴールのひとつは映画人口を増やすことだと思っています。これからも、映画通が喜ぶマニアックでニッチなところを丁寧に拾っていく、そしてマス向けの映画で映画ファンを育てていく。この両方をバランスよくやっていきたいと考えています。

*1 GEM Partners調べ「動画配信(VDO)市場5年間予測(2023-2027年)レポート」より

取材・文/今祥枝

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U-NEXT映画部
2023年4月現在は総勢5名。100社を超える映画会社と向き合いながらの作品調達、映画作品をテーマ別にキュレーションした特集の制作、「ONLY ON U-NEXT」として打ち出す独占先行作品の選定と交渉、映画作品への出資、映画祭との連携等々、映画に関することの全般を手掛ける。

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U-NEXT映画部のnote
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