裁判傍聴で聞く“定番のセリフ”

北尾 僕の場合はね、ちょこちょこ興奮するんです。ちょっとしたことで。その中のいくつかが形になるんですけど、途中で冷めちゃうこともあるし。

〈刑務所出所者を雇用する社長〉栃木のレディース暴走族「魔罹唖」の初代総長は、いかに刑務所出所者たちの“聖母(マリア)”となったのか?_4
北尾トロ氏
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高橋 でも、この取材に関してはなぜ冷めなかったんですか。

北尾 「法学セミナー」という、司法試験を目指す学生さんが読むような本当に硬い雑誌があって、そこにコラムを連載させてもらっていたんです。僕はずっと裁判を傍聴してきたけど、いつも判決のときに裁判長が言う定番の台詞あるじゃない? 「二度とここには来ないように」って。

高橋 執行猶予判決を言い渡したあとに執行猶予について詳しく説明するときとか、特にそんな台詞が出ますね。

北尾 そうそう。ちゃんとしっかり更生して第二の人生を歩んでください、みたいなことを言うわけです。だけど傍聴していると「あなた何度目の裁判ですか」みたいな被告人をいっぱい見かけるわけです。実際は裁判長の励ましにもかかわらず、またやっちゃう人がいる。統計だと再犯者率は5割近いんですよね。それはなぜかというと、刑務所から出たときに、仕事も家もお金もない、友達もいない、そんな状態で放り出される場合がある。そうなると、本当はやり直したい気持ちはあったとしても、ついついまた悪いほうに行っちゃったりすることがある。

高橋 刑務所に入りたいからという理由で無銭飲食して逮捕されたりという事案もありますね。

北尾 捕まるためにやってるような人もいる。でも再犯率を下げなきゃ、ということは、前から言われているんですよね。そのために協力雇用主という制度がある。ざっくり言うと、出所者を積極的に雇い入れる会社に登録してもらって、国の方で補助を出しますよという制度です。登録している会社は数千社あるんですが、実績のある会社は、1000社ぐらいかな。実際は、出所者を雇って大問題を起こされたりとか、いろんなことがあって、ちょっと尻込みしてしまうという場合もあって、なかなか「どんどん来いよ」みたいな会社がない。ところが、廣瀬さんの会社は、もう今は社員40数名いるんですけど、8割以上は出所者です。本人もそうです。

構成/高橋ユキ 撮影/中川カンゴロー

後編 暴走族初代総長、覚せい剤売人、手錠に腰縄をつけたまま獄中出産……鬼怒川温泉でお酌していた中学生コンパニオンの激しすぎる半生 に続く

人生上等! 未来なら変えられる
著者:北尾 トロ
〈刑務所出所者を雇用する社長〉栃木のレディース暴走族「魔罹唖」の初代総長は、いかに刑務所出所者たちの“聖母(マリア)”となったのか?_5
2023年2月3日発売
1,980円(税込)
四六判/244ページ
ISBN:978-4-7976-7423-1
過去は変えられないけど、未来なら変えられる!
レディース暴走族『魔罹啞』の総長は、刑務所出所者たちのマリアになった。
二度の服役経験がある建設請負会社社長、廣瀬伸恵の激動の痛快半生を描く。

映画やドラマを上回るようなスピードで悪の道を突っ走った彼女は、中学2年生で家出、温泉街のコンパニオン、ヤクザによる監禁を経験する。その後レディース暴走族『魔罹啞』を結成。暴力もいとわず組織を大きくした。
やがて覚せい剤の売人になり二度服役。だが二度目の服役中に獄中出産すると、子どものためにと、がらりと生き方を変えた。
ところが、まっとうな仕事をしたくても、職場で素性がばれると居場所がなくなる。ようやく受け入れてくれたのは、建設業界。やがて建設請負会社を起業し、さまざまな出会いにも恵まれ、刑務所の出所者を雇用するようになる。
裏切られることも多いが「私は決して見捨てない」と、従業員のために寮を確保し、毎日ご飯をつくる。いまでは従業員のほとんどが出所者だ。
長年裁判傍聴を続け、犯罪者に慣れている著者の北尾トロにとってさえも、廣瀬の生き方は驚きだった。廣瀬が悪に走り、劇的な更生を遂げたのはなぜか。相棒のカメラマン、中川カンゴローとともに、その核心に迫り、軽妙な筆致で綴る。また犯罪を生み、更生を阻む社会の現状も問う。
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