一度プリキュアから離れた納得できる理由

――鷲尾さんは「Yes!プリキュア5GoGo!」が放送終了し、一度「プリキュア」シリーズから離れていました。交代は鷲尾さん自身のご意向とのことでしたが、なぜでしょうか?

ひとりの人間が長く居続けてしまうと、新しいアイデアって生まれにくくなっちゃうんですよ。いわゆる前例主義が出来上がってしまい、似通った作品が作られてしまう。上司とも「5年で一旦交代したい」と話していましたし、その方が新しいスタッフが自由に作っていけると思いました。

その後、「フレッシュプリキュア!」から「ハピネスチャージプリキュア!」は、ありがたいことに関連の玩具もたくさん売れ、多くの人々に愛される作品になり、本当によかったです。

――その後、鷲尾さんは2015年の「Go!プリンセスプリキュア」から再び企画担当としてシリーズに携わり始めました。本作は主人公の春野はるか(キュアフローラ)が花のプリンセスを目指して邁進するストーリー。“プリンセス”というと、古典的な女の子の夢のイメージが強いので、モチーフに驚いたファンは多かったかと思います。

お姫様をモチーフにすると決めたとき、いかにプリキュアでやる意味を盛り込めるか、けっこう時間をかけて詰めていたんです。そこで「つよく、やさしく、美しく」というキャッチフレーズをみんなで考え、見た目の華やかさではなく心の強さで気高く美しくあれと訴えることにしたんです。

お姫様というと、身分制度、階級社会といった観念がつきものですが、そういったことを抜きに「本当の清らかな精神とは何か」と探求することが「Go!プリンセスプリキュア」のテーマ。「自分の足で凛々しく立つ」という大元の信念があるからこそ、プリンセスというテーマが持つ内面を掘り下げるようにしたんです。

『プリキュア』は打ち切りの可能性もあった!? 初代プロデューサー鷲尾天が語る、20年間続いた礎となったのは最初の企画書に書かれていた「自分の足で凛々しく立つ」こと_4
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――女の子の憧れである「お姫様」だからこそ、改めてその定義を考えなおすと。その次作の「魔法つかいプリキュア!」がスタートしましたが、魔法というとあまりプリキュアっぽくないテーマですよね?

おっしゃるとおりで、私も企画の当初から「プリキュアは魔法ではない」と断言していたこともありました(笑)。

「魔法つかいプリキュア!」では、朝日奈みらい(キュアミラクル)とリコ(キュアマジカル)が出会い物語が進んでいくのですが、彼女たちはそれぞれナシマホウ界(人間界)と魔法界に属する立場も違えば、住む世界も違うふたりです。

魔法界はもともとナシマホウ界とひとつの世界でして、ふたつは同じ世界でした。この設定は中世の魔女に関する学術書を参考にしています。当時の権力者が薬学者や助産師など、民衆の尊敬や信頼が集中しそうな人々を排除するために「魔女」と称し迫害した。逃げのびた彼ら・彼女らが独自のコミュニティーを作り上げた歴史をなぞっています。そこで、本作では、分断されてしまったコミュニティー同士の人間が出会って、「魔法を超えて生まれた奇跡がプリキュア」と理屈づけたんです。

たとえ違う世界に生きる者同士でも困難に立ち向かう勇気を忘れていなければ、手を取り合って仲よくできる……。これが本作を通じて私が伝えていきたいメッセージであり、どの作品にもいかにプリキュアでやる意味を盛り込めるかを真剣に考え続けていたので、今があるんだと思います。

#2後編『「多様性は意識していません。子供は怖いですから」と初代Pが語る本当の理由』はこちら

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「ひろがるスカイ!プリキュア」

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取材・文/文月(A4studio) 撮影/下城英悟