強行遊説の背景にある自民劣勢の選挙戦

そのため、永田町周辺からは「和歌山駅前での演説でも続けて襲われていたらどうするつもりだったのか。聴衆に被害が出る可能性もある。せめて直後の街頭演説は中止にし、警備体制が整ってから演説を再開するのが正しい判断だったのではないか」という声も聞かれた。

また、自民党周辺によると、一部の幹部からは「街頭演説を続けたとしても、聴衆と触れ合うのは警備上控えた方がいいのではないか」という意見も出たが、新浦安駅前では演説後に岸田首相が聴衆に近づき、握手やグータッチを交わす様子も見られた。

前出の政治部記者は「暴力に屈しない姿勢を示したいという側面もあるのだろうが、事件を受けて岸田首相自身の高揚感が高まってしまい、自制が効かなくなった部分もあるのではないか」と心配する。

その背景には、いま行われている衆参5補選で自民候補が劣勢に立たされているという現状がある。
事件があった和歌山1区の補選では、統一地方選の前半戦で隣県の奈良県の知事選を制した日本維新の会が勢いを増しており、一部の情勢調査では維新の林佑美候補が自民元職の門博文氏に先行しているとの結果も出ている。
また、その後に岸田首相が訪れた千葉5区の補選も、英利氏に保守層からの支持が十分に集まらず、立憲民主党の矢崎堅太郎候補と互角の戦いを繰り広げている。

〈爆発事件後も遊説続行〉焦る岸田首相「周囲が止めても握手やグータッチ」「高揚感から自制が効かなくなった」背景に衆参5補選“1勝4敗”なら求心力低下は必至で…_2
自民党公認で千葉5区の補選を戦う英利アルフィヤ候補(撮影/集英社オンライン)

翌16日に首相が応援に入った参院大分補選は、大分県が社民党の村山富市元首相の地盤ということもあり、社民党党首を務めたこともある立憲の吉田忠智候補が、自民の白坂亜紀候補に対して有利な戦いを展開している。
そして、自民王国である山口2区でも、岸信夫前防衛相の長男で、自身のHPでの「家系図アピール」を批判された自民の岸信千世候補が、無所属の元職、平岡秀夫候補と接戦中という、まさかの展開が起きている。

今のところ自民が安定して優位な戦いを進めているのは故・安倍晋三元首相の地盤だった山口4区のみで、自民党周辺からは「この衆参5補選で連敗を喫してしまうと首相の求心力が一気に低下し、政権運営が不安定になる可能性がある」と懸念する声が漏れている。