国家ぐるみの臓器密売犯罪。臓器のプライスリスト

<拉致被害者3000人>コソボで起きている“国家ぐるみの臓器密売犯罪”の闇と西側諸国が沈黙する理由_3
写真はイメージです

木村 当初、NATOは「セルビアの軍事施設だけを攻撃目標とする」と喧伝していましたが、米軍機は中国大使館を“誤爆”したり、服飾工場まで攻撃して民間人も殺傷した。理由はそれぞれ「古い地図を使った」「軍服を作っていた」というめちゃくちゃな理由です。空爆当時、日本ではセルビア人サッカー選手のストイコビッチが「NATO STOP STRIKES」というTシャツを着てアピールしましたが、ほとんどの世論は、ユーゴは攻撃されても仕方がないというものでした。そんな中、藤原さんの『中学生から知りたいウクライナのこと』を読んで、日本のアカデミシャンにもこういう人がいたのだと思ったわけです。

藤原 私は逆に木村さんから、「ナチズムを研究されているのならば、今もナチズムの生きている場所に行かないといけない」と言われて、旧ユーゴスラビアのクロアチアとボスニアの現場を紹介して頂き、昨年の夏に行きました。驚いたことにクロアチアでは、ナチスドイツの傀儡国時代のクロアチア独立国に対する熱狂が70年以上経った今でも現存されていました。

また、ボスニアのモスタルでは、ナチスから祖国を解放したパルチザン兵士の墓がハンマーのようなもので破壊されていて、逆にカギ十字の落書きまでなされていました。アテンドしてくれた学生に聞いたら、それもつい最近に行われたとのこと。

抽象的な表現で申し訳ないですけど、今、この世界はダブルスタンダードだと思うのです。例えば日本とかヨーロッパの国々の中では、とにかく人権を尊重しようということが言われるんだけど、その周縁に行けば行くほど加速度的にその人権意識が破綻している。

ドイツ国内では到底許されないナチスへの称賛や歴史修正がクロアチアでは行われていて、トゥジマン初代大統領による建国の大義にもなっていた。そして今回、木村さんが著作『コソボ 苦闘する親米国家』でも指摘されていますが、そうした大国の軍事介入によって平和がもたらされたとされているコソボでは、国家ぐるみの臓器密売の組織犯罪が行われていた。

木村 米国はコソボにおけるアルバニア人の人権保護を名目に、NATO軍による空爆を行ってコソボからセルビア治安部隊を撤退させたわけですが、今度は極右のKLA(コソボ解放軍)がセルビア民間人をアルバニア本国に拉致、殺害し、臓器摘出して富裕層に売りつけるという組織犯罪が行われるようになった。

ショッキングなのは、KLA出身のコソボ政府の首相たちまでもが関与していたことです。組織犯罪であると同時に国家犯罪です。臓器のプライスリストまで出来ていて、約3000人の無辜なる市民が犠牲になりました。

<拉致被害者3000人>コソボで起きている“国家ぐるみの臓器密売犯罪”の闇と西側諸国が沈黙する理由_4
流通していた臓器の価格をまとめたリスト。マーケットは世界中の富裕層で国境を越える。この問題をウオッチした欧州評議会人権委員会のディック・マーティは民間人を犠牲にした臓器密売犯罪「黄色い家」について詳細なレポートをまとめており、コソボ政府のサチ首相(当時)の関与にも言及している。「ショックなのは国際機関もこの犯罪を知っていたのに政治判断から黙っていたことだ」(マーティ)

しかし、空爆の正当性を疑われたくない米国や西欧社会は見て見ぬふりです。ICTY(旧ユーゴ国際戦犯法廷)のカルラ・デル・ポンテ検事が訴追に動きますが、NATOの友軍関係にあったKLAの軍人たちに起訴状が出れば、軍事オペレーション自体に停滞を及ぼすために米国以外のNATO加盟国もまた非協力でした。

米国は現在もKLAをコソボ政府の権力中枢に据えて親米国としてコントロールしていますが、そのためにいまだ、この臓器密売犯罪についてはまったく解明が進んでいません。これなどもいかに周辺国を軽視しているかということです。